研究課題/領域番号 |
16K04768
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉冨 健一 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (00437576)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 気象 / 雲 / 教材開発 / 中学校 / JavaScript |
研究実績の概要 |
二年目となる平成29年度は,初年度に開発を行った雲の変化を毎日記録する“記録システム”の改良を行った。ここでは気象の分野で学習する“飽和水蒸気量”や“湿度”と,空気の上昇に伴って温度が低下する“乾燥断熱減率”の知識をもとに,実際に雲がどういう条件で形成されるかに焦点をあて観察を行えるよう改良を行った。 雲は,形成される高さの違いによって上層雲・中層雲・下層雲に分類される。気象の分野で学習する,暖められた空気が上昇して飽和水蒸気量に達すると凝縮して雲ができるという雲の発生モデルは,主に下層雲の発生プロセスを示しており,一般に低気圧の前後で暖気と寒気が接する前線面に伴って形成される上層雲および中層雲とはできかたが異なる。 水蒸気を含む空気が上昇した際に,過飽和になって凝結が始まる(雲が形成される)高度は,持ち上げ凝結高度と呼ばれ,もともとの気温と湿度によって異なる。本システムでは下層雲を観察の対象とし,この持ち上げ凝結高度を,地表で観測した気温と湿度を元に計算するページを,JavaScriptを用いて作成した。このページで計算された持ち上げ凝結高度を,観測値の周囲にある山々の標高を参考にして比較する活動や,計算された露点温度と,赤外放射温度計などを用いて雲底温度を観測した数値とを比較する活動などを通して,学習内容と観察した事象の関連付けを可能とした。 またCanvasJSを用いて地表の気温と湿度を入力すると,露点温度を自動で計算し,露点温度より低い高度では乾燥断熱減率,それより上空では湿潤断熱減率でグラフを表示させるページを作成した。ここに気象庁が公開している「指定気圧面の観測データ」を参考にして,地表の影響を受けにくい850hPaより上層の気温分布を併せてグラフ表示した。このページを利用することで,雲の発生しやすさや,雲底高度に対して気象条件から理解できるよう工夫してある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の気象学習の問題点は,所在地の緯度・経度や標高による地域差が大きいにもかかわらず,教科書の典型的な例示に頼らざるをえないことにあった。天気の変化は様々な地理的要因に左右され,その土地特有の変化の様式を持っていることが多い。また気象の学習には,学習指導要領において自ら観測を行い,気温や湿度などの変化が,天気の変化と密接に結びついていることを学ぶ必要性が問われているが,実際問題として,気象の単元にあてられる時間数の問題や,週1回程度の限られた時間,および教室や校舎周辺など限られた場所での観測からは,天気の変化に関して有効な法則性を見つけることは難しい。例えば,温暖前線や寒冷前線の通過に伴う雲の種類や気温の変化を学習しようと思っても,低気圧から伸びる前線が観測地をきれいに通過するのは年に数回のチャンスしかなく,それが授業時間にあたる可能性はほとんどゼロに等しい。気象の学習における重要なポイントは,気象の学習に適した年に数回のチャンスを記録し,教材として活用することである。 二年目となる平成平成29年度には,初年度に開発を行った雲の“記録システム”および記録された雲の画像を,インターネットを経由して観察できるようにする“公開システム”の安定運用を引き続き目指した。また,蓄積された雲の観察データや実際の観察をもとに,雲の形成される条件について学習するための,様々な情報を提示するためのページを新設した。雲がある日とない日があり,晴れていても雲はできる。また雲の種類の違いによってできる高さに差があるなど,雲の観察は奥が深い。とりあえず地表の気温と湿度の測定から,雲が形成されているプロセスを理解できるような学習活動などの実践を通し,ほぼ当初の計画通りに研究は進んでいるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度にあたる平成30年度は,大学の講義における教材として,実際に雲の観察を行う際に,記録した雲の画像や動画データ等を,学生がタブレット端末等を用いてインタラクティブに利活用したりできるよう改良を行っていく。また,雲の変化の様子と,天気図と風向きの情報や,気象衛星からみた雲の画像等を併せて利用できるようシステムの改良を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が1万円未満と少額であったため,執行せず翌年度に利用することとしたため。
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