研究課題/領域番号 |
16K04777
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研究機関 | 日本体育大学 |
研究代表者 |
南部 さおり 日本体育大学, スポーツ文化学部, 准教授 (10404998)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 学校事故 / 部活動 / 体罰 / スポーツ事故 / スポーツの安全指導 |
研究実績の概要 |
今年度新たに行った試みとしては、は熱中症の専門家との研究交流を積極的に行い、熱中症に関する最新の医学科学的知見及び米国のスポーツにおける熱中症対策の現状について深く学ぶ機会を得ることができた。種々の講演活動、現役のスポーツ指導者・教員に向けた啓発活動として結実した。 さらに昨年から継続して、全国の学校事故被災者とその家族たちと交流を行い、様々な事例の収集を行うとともに、専門的なアドバイスなどを行った。 そして昨年度に引き続き、本学の教員を目指す学生向け研修会である「学校・部活動における重大事件・事故から学ぶ研修会」を6月30日、10月13日、11月3日、12月14日に開催し、延べ1,000人ほどの学生・外部参加者に向けて学校事故の被害者たちが直接経験を語り、同じような事故をなくすための提言を行う機会を設けることができた。 その他、本研究では継続して全国の学校事故の事例収集・分析・防止策の策定などの活動を精力的に行ってきており、4件の学術論文と3件の学会発表を行った。さらに研究成果を社会に還元するために行った講演会活動を、全国各地の教育委員会、自治体、スポーツ少年団等々で多数行ってきている。今後は講演活動を通じて得られた組織・団体・個人との協力関係を有効に生かし、現在進行形のリアルな問題について議論を続けることで、現場に密着した安全かつ有用なスポーツ指導の方策を発信し続けることが予定されている。 加えて、今年度中に学校事故裁判において、数件の意見書の作成を行っており、意見書作成にあたって得られた成果は、今後の研究活動の貴重な財産となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、研究活動遂行に当たり、大きな転換期であった。国内では学校体育祭における組体操事故や、運動系部活動における体罰事例、パワハラやセクハラ指導の問題が大きく取りざたされ、メディアもこれらの問題を多く取り上げていることと相まって、政府の打ち出した「働き方改革」を皮切りとした教員の労働環境への不平不満が爆発し、「ブラック部活動」などの新たな言葉が各種メディアを賑わせるに至った。恐らく、これほどまでに学校部活動問題が世間の耳目を集めたことはなかったのではないかと思うほど、世論は大いに同問題に喚起された。このような社会的な流れを受け、学校現場やスポーツ指導の現場では、改めて部活動指導におけるリスクマネジメントの問題に真剣に取り組む機運が高まったものと思われる。上記の研究結果の項で挙げた講演会活動のニーズの多さは、こうした世相を顕著に反映したものであったのではないだろうか。 このように、世論や指導者たちの問題意識の向上はかなり前進したものであるが、そうした中でも、相変わらず部活動における体罰は横行しており、今年度の流行として、部活動における体罰・パワハラ指導をスマートフォンの動画記録機能を用いて密かに隠し撮りしたものがyoutubeやSNSなどに投稿されるケースが多く発生した。さらに、私のところにも個人的に、部活動における暴力的指導に対して苦言を呈する訴えが多数寄せられてきており、同問題のドラスティックな解決の困難さが改めて浮き彫りとなったものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
世論や指導者たちの問題意識の向上はかなり前進したものであるが、そうした中でも、相変わらず部活動における体罰は横行しており、今年度の流行として、部活動における体罰・パワハラ指導をスマートフォンの動画記録機能を用いて密かに隠し撮りしたものがyoutubeやSNSなどに投稿されるケースが多く発生した。さらに、私のところにも個人的に、部活動における暴力的指導に対して苦言を呈する訴えが多数寄せられてきており、同問題のドラスティックな解決の困難さが改めて浮き彫りとなったものと考えている。 確かに、体罰的指導は御法度とされる気運は高まっているものの、「体罰さえしなければよい」という誤った解釈が部活動・スポーツ指導者によってなされ、「体罰をしない代わりに言葉や態度で追い詰める」という問題状況が多く報告されてきている。 またそのような流れの中で、不適切な指導によって生徒の生命身体、健康状態を危険にさらした教師の「個人責任」をいかに考えるかという問題についても、特に今年度は時間と労力を割いて検討を行ってきた。 教員の身分について、今年度に知り合った教員組合の組合員や中学高等学校の管理職などからの聴取を行ったが、一様に、被害者が「もう二度と部活動の指導をして欲しくない」「教壇に立ってほしくない」という真摯な願いは理解できるが、教員の身分は保証されており、懲戒免職にすることは難しいとの回答がいずれも得られている。大きな事件となった後も、別の学校で平然と同様の指導を続けている事案も多くきかれていることから、こうした問題にどう対応していくべきであるかを、政策レベルで考える必要があると考えている。そのため、国会議員を対象とした国家賠償法の勉強会の開催は重要な取り組みの一つであり、来年度以降も継続するために、さらなる調査研究を進める必要があるものと考えている。
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