本研究を通じ、わが国の学校部活動において、事故が起きる環境に共通している要因は、①部活動内のコミュニケーションが十分にとれない環境にあること、②指導者が今の子どもの運動技能、体格・体力・能力差に十分に配慮した指導がなされていないこと、③指導者において個々の生徒の体力や技能に合わせた指導方法を実施するための工夫がなされていないこと、④指導者において「長期的な視点で指導を行う」というスタンスが取られていないこと、⑤指導者において「科学的指導方法」ではなく、根性論や経験によってスポーツ指導がなされていること、⑥指導者において事故が起きやすい時期を把握しておらず、時期や季節に応じた適切な指導を行っていないこと、⑦そのスポーツ特有のスポーツ障害の予防方法を指導者が学んでいないこと、⑧指導者において熱中症の発症を生徒の「なまけ」や「さぼり」と見なし、さらなる負荷をかけようとすること、⑨指導者が事細かに動作の「ダメ出し」をすることで、生徒を委縮させてしまうこと、などが導き出された。 これらの研究成果を踏まえ、平成30年度に行った部活動・スポーツ事故防止・事後対応に関する講演・シンポジウム・研修会は、全部で24事業である。それらの研修会では、今年度のみならず、研究実施期間を通じて得ることのできた学校事故や体罰・パワハラ事案の分析結果に基づき、きわめて実践的なスポーツ指導リスクマネジメントの方法論を示すよう心がけた。 これらの研修会事業及び研究結果を踏まえた成果として、 2019年3月に、冊子『部活動・スポーツにおける安全指導・事故対応の手引』(全164頁)を作成した。この冊子は、今後教職員やスポーツ指導者、教員志望の学生に向けて配布することを予定している。また、報告者が所属する日本体育大学スポーツ危機管理研究所のホームページからも無料ダウンロード可能な状態にして公表したいと考えている。
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