研究課題/領域番号 |
16K04779
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
黒川 通典 大阪府立大学, 総合リハビリテーション学研究科, 講師 (30582324)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | OSCE / ICT / 栄養指導 |
研究実績の概要 |
本研究は、臨床現場での実習を控えた学生が、タブレット端末の画面上に表示される模擬患者と面接を行うことにより、事前にその内容を評価し、トレーニングを行えるプログラムを開発することを目的としている。医療面接の評価手法としては客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination;以下OSCE)がよく知られている。これは、患者とのコミュニケーションスキルを含めた臨床技能・態度を評価する実技試験として、医療系大学でよく実施されているが、評価の公平さの担保や、多大な人手・時間・費用を要する等の課題があり、広く普及には至っていない。特に栄養系大学では多種多様な患者に対応した栄養指導の技能に関しては、標準化されたOSCEの作成や実用化に至っていないのが現状である。その背景には、栄養指導の質の評価は、指導者個々の経験・特徴に基づく差異や、患者個々の治療への意欲・価値観等に対応した有効な言葉遣いや指導内容の差異、療養指導の正解は1つではないという栄養指導の根本的性質等に左右され、標準化が難しいことも関連していると考えられる。本研究におけるプログラムはタブレット端末等に表示される模擬患者のアクションに対する被評価者の発言を分析することが特徴であり、面接の過程を評価するための標準化されたアルゴリズムの構築が必須である。そのため平成28年度においては実際に面接指導を行っている医療機関に出向き、詳細なインタビューを行い、その結果をもとに面接時に必要なキーワード、使ってはいけないキーワードの抽出のためのデータベースの構築を行った。インタビューを行ったのは大阪府内に位置する大学病院、公立病院等11の医療機関で栄養指導を担当する管理栄養士である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度では、臨床現場における栄養指導の実態を把握し、プログラム開発のための基礎資料としてキーワードの抽出を行うこととしていた。具体的に行ったことは、まず事前に検討資料として10の症例を用意した。これは実症例をもとに作成した架空の患者と指導者の面接時でのやりとりを記載した113ページからなるプロセスレコードで、性格・病状の様々な患者を想定し、患者の性格タイプを4分類(ユング心理学の性格類型改変 坂根直樹ら提唱;外交的or内向的、理論的or感情的の組合せ)と、行動変容ステージモデル5段階(前熟考期/熟考期/準備期/実行期/維持期)との組合せから構成している。この検討資料を医療機関の管理栄養士に見てもらい、実際に行われている栄養指導との対比や、キーワードの抽出をアンケートにより依頼した。後日再訪問し、アンケートの確認とともにインタビューを行った。ほとんどの医療機関で共通していたことは、「挨拶」「患者確認」「自己紹介」「否定・強要しない」「同調・肯定する」「褒める」ことの重要性と「継続指導ができること」であった。さらに、これらを裏付けするキーワードが確認できた。以上のことから、予定していた計画は順調に進捗していると判断し、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの訪問調査によって、栄養指導を目的とした面接時において、指導者が心得ておくべき事柄、確認すべき事項、使ってはいけない言葉などが明らかとなった。たとえば重要な行動として、自己紹介と患者確認、明確な時間設定などがあり、指導上の重要なキーワードとして個人を特定する「○○さんの場合は」、患者情報を得るためのきっかけとして「調子はいかがですか」、励ましとなる「一緒に」、意欲を醸し出す「効果的」、「効果が上がる」などが抽出された。また、使用することが望ましくないキーワードとして基準があいまいな「バランス良く」、「ヘルシー」、押し付けととらえられがちな「治療の基本」、2重質問になる「何をどのくらい」、不安を与える「気になる点があります」、共感にならない「よかったですね」などが抽出された。しかしながらこれらの「ことば」については医療機関ごとに意識する度合いが異なっており、標準化に向けたさらなる意識実態調査を行い、その解析結果を学会発表、論文掲載により、広く一般に発信できるよう取り組んでいきたいと考える。 さらに2017年度では、検討資料として作成したプロセスレコードをもとに、指導者の評価のためのアルゴリズムを作成する予定である。この評価アルゴリズムについては、実際にロールプレイ形式でその実用性を確認するとともに、医療機関で栄養指導を行っている管理栄養士の意見を参考に改良を続け、最終案を作成する予定である。そして最終案をもとにプログラム開発を行い、本研究の最終年度である2018年度において、その有効性を確認する予定としている。研究計画完遂後は、学会発表、論文掲載により、プログラムを広く一般に発信できるよう取り組んでいきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたアンケートに関して非常勤雇用により処理することとしていたが、内部スタッフで処理を行うことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
プログラム開発に関しては業者委託を予定しており、今年度の研究成果(評価ロジック)を実現するためには、当初予定額を上回る経費が必要となるため、充当を予定している。
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