最終年度においては,これまでの研究における基本図形の認識における関係概念の形成に関する現状の課題を踏まえた上で,DGEを導入した図形に関する義務教育段階のカリキュラム開発について,文献および実証研究を進めた. まず,DGE利用における学習者の図形の認識及びその変容を評価するための枠組みについて検討・考察を行った.学習者によるスクリーン上の図の解釈に基づく図形の認識の状態について,文献研究の結果,様々なDGE開発の背景に共通にあると考えられる,「点の自由度」の概念の導入により,これまでの環境とは異なるDGE利用における図形の認識を評価できることが結論付けられた.これに基づき枠組みの開発に向けた調査を,大学生を対象に基本的な平面図形の作図課題及びスクリーン上の図の再生を求める課題により行った.DGEによる作図ファイル,ビデオ記録などから「点の自由度」の認識の変容を分析した結果,スクリーン上の図の解釈に基づく,図形の認識が,直観的なレベルから幾何的・論理的レベルへと変容する様を「点の自由度」の認識により記述するための枠組みを開発し,発表した(日本科学教育学会「科学教育研究」に採録済み). 次に導入の適時性について検討・考察を行った.先の調査から,DGE利用が先の関係概念の形成に効果があり,基本的な図形の理解以降,平行や高さなどの概念が導入される以前にDGEを導入することが適時であることを仮説として立てることができた.特に小学校第4学年からにおける導入が想定される.しかし,児童・生徒を対象とした実証的な検討において課題が残る結果である.これらについて先行研究においては,教室での利用に対する研究成果を示しているが,それらはすべてDGE利用の効果とはいいがたく,教師による授業実践の質によるものであることがうかがわれる.DGE利用の効果の検証のための研究計画の再検討が必要である.
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