研究課題/領域番号 |
16K04791
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研究機関 | 奈良学園大学 |
研究代表者 |
松井 典夫 奈良学園大学, 人間教育学部, 准教授 (10736812)
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研究分担者 |
岡村 季光 奈良学園大学, 人間教育学部, 専任講師 (00750770)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 安全教育 / 防災対策 / 熊本地震 / 教員の使命感 / 教員の多忙感 |
研究実績の概要 |
本研究は、これまでの事件や災害で失われた幼い命が残した教訓を生かした教材開発を行い、その妥当性と有効性を調査、検証し、全国の学校において実施可能な、有効で汎用性の高い安全教育プログラムを開発することである。その中で、本研究を開始した平成28年4月に熊本地震が発生した。そこで本研究では、避難生活と学校教育の関連、正常化していく学校教育の推移、被災した児童のメンタルケアを含めた安全教育の動向について、継続的に調査を行うことにした。そのことにより、被災地、及び被災者が発する教訓に基づいた、真に有効な安全教育カリキュラムの開発への大きな一助となることを確信している。そのことは、日本の学校安全、そして子どもたちの命に結びつく研究であると考えた。 そこで本研究では、継続的に研究・調査を実施することができる小学校と、研究協力体制をとった。協力校においては、安全教育の授業実践を行うとともに、授業前後の安全意識調査を継続的に行っている。 また、教員に対しては、災害時における「使命感」「多忙感」に焦点を当て、質問紙調査や半構造化面接において継続的に調査を続けている。教員に対する調査により、安全教育や学校の防災対策への必要性や負担感を明らかにしていく。そのことによって、有効で実効性の高い学校安全プログラムの構築が可能になると考える。 本研究は、標題の研究調査であることはもちろんのこと、そこに包含されるのは「研究を目的とした被災地支援」であると自負している。協力校で行う「いのちの教育」としての安全教育は、協力校の児童の安全・安心な日々への推進に寄与するものでありたいと願う。また、そこから派生し、熊本県の学校安全に寄与することが、本研究に込められた価値であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度においては、汎用性のある安全教育プログラムの開発という目的を鑑みて、国内外の小規模校、標準規模校、大規模校の国公立、私立小学校と、偏りのない実践、調査が可能な小学校に研究協力を依頼し、体制を整え、これまでに災害や事故、事件で子どもが命を失うような災禍に遭った小学校においても取材、協力を仰ぎ、そこから生まれた教訓を、安全教育プログラムに反映していくことを予定した。その中で、熊本地震で避難所として運営された小学校と協力体制が取れていることは、期待以上の成果である。平成29年4月14日の震災1年目のその日には、研究協力校からの依頼で保護者、教員への講演会を持つとともに、低学年、中学年、高学年のそれぞれを対象にした安全教育の授業実践を行ったことは、大きな成果であった。また、中小規模校との研究協力も得られ、継続的に調査、実践を行うことができている。しかし現在においては、海外における災害体験校での実地調査を行うことができていない。この点については、平成29年8月に予定されている。 また、学校や児童の安全を守る立場である教員に関して、熊本地震(あるいはいかなる災害)における教職員はまさしく「統制が効かない」状況において「多忙」を極めているといえる。特殊な状況下、とくに災害時においては、その「使命感」は「多忙感」を凌駕するのではないかという仮説を立て、熊本地震において教員が果たした役割をモデルとし、非災害地域の教員との比較調査を通して検証し、教員固有の職業的役割を明確にしようとした。そのことによって、真に有効で実効性の高い安全教育プログラムへと結びつけていくことができると考え、研究を継続しているところである。この、災害時における教員の多忙感と使命感に関連する研究の成果は、平成29年3月の学会において口頭発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後においては、熊本県の研究協力校において、継続的な研究を続けて行くとともに、一般的な国公立、及び私立小学校、東日本大震災後の東北地方の各学校、阪神・淡路大震災後の兵庫県の諸学校、また、児童が被害に遭う事件・事故を体験した学校に赴き、授業視察、教員への聞き取り、資料提供の依頼と資料分析を中心に行う。また、平成28年度に実践した研究協力校における安全教育の授業実践の前後に行った調査結果の分析を行い、授業実践前と後の比較を行う。調査結果の基礎統計量を算出した後、要因間のクロス集計及び多変量解析により、低・中・高学年の各群間における差異を検討する。その調査結果の分析に基づいて、安全教育プログラムの試案を作成する。教育内容の分野については、低学年・中学年・高学年の三段階において、防犯・水難災害・地震災害・火災・交通安全の各カテゴリーの授業プログラムを作成する。また、国内のみならず、海外における災害多発地域での学校安全プログラムの調査に赴き、より有効で実効性の高い学校安全、安全教育プログラムの開発を進めていくつもりである。 これら実態調査結果や安全教育プログラム試案については、学会等で提案発表を行い、多方面からの視野を研究に取り入れていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度においては、とくに旅費の使用において使用計画を変更した。理由としては、研究の過程で熊本地震が発生し、当該研究のより高い成果を目指して、熊本県への調査、安全教育実践の機会が多くなった。そこから、当初予定していた海外における安全教育や学校安全の実態調査を行うことができなかった。また、国内においても熊本県を中心とした調査が主となり、東北地方への予定していた調査を行うことができなかった。 また、物品においても、本格的な質問紙調査の分析や半構造的面接による調査は、次年度(平成29年度)へと移行させたため、予定していた物品を購入しなかったことが理由として挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては、研究協力校である熊本県へは継続的に実践、調査を重ねていくとともに、海外へと視野を向けた調査を行っていく予定である。とくに海外における災害経験のある地域や国を訪れ、実態調査を行い、より効果的な安全教育プログラムの試案を作成し、実践していく予定である。 また、調査に関して、タブレット端末を用いた調査の利便化を図り、より多くの調査を行うため、調査関連の物品の購入を予定している。
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