研究実績の概要 |
研究の目的は, 看護系大学生の認知症高齢者の思いや考えおよびイメージの把握を行い, 臨地実習前の講義・演習・臨地実習での効果的な教育方法を検討することである。 認知症高齢者は増加の傾向にあり, 看護学生はあらゆる領域実習でも接することが多い。学生自身は核家族化や地域との交流が減少した現代社会で育っており, 高齢者との接触も少なく, 認知症高齢者と関わる経験は少ない。そのため, 学生は臨地実習で認知症高齢者の否定的発言や暴力等その対応に困難さを感じ, コミュニケーションがとりにくい。 そこで, A県内外の6校の看護系大学生(看護専門学校含む)に対して, 認知症高齢者と関わる実習を体験したことによって認知症高齢者のイメージの変化があるのではないかと予測して, 全ての実習が終了した4年生と基礎実習が終了した2年生を対象として, 自記式質問紙による調査を行った。2年生に460部配布, 回答者数が389名(回収率82.0%)有効回答者数は366名(有効回答率79.6%), 4年生には448部配布, 回収353名の回収率78.6%, 有効回答は325名, 有効回答率は72.5%であった。合計691名の看護系大学生を対象として分析を行った。臨地実習で認知症高齢者と関わった看護学生は62.7%で, 認知症高齢者と関った程度として, 68.9%の看護学生が病院・施設で受け持ち患者として接していた。看護学生が受け持った患者の症状としては, 記憶障害46.3%, 見当識障害36.6%が多く, 看護学生は臨地実習前にコミュニケーション・意思疎通の困難感や対応に対する不安を抱えていた。認知症高齢者のイメージのSD法では, 全ての実習が終了した4年生が2年生に比べるとやや否定的傾向にあった。今後は認知症高齢者のイメージがつくような教育プログラムを検討していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は, 看護学生の認知症高齢者の思いや考えおよびイメージの把握, 実習での関りの自記式質問紙による調査を行った。調査は6校の看護大学, 看護専門学校を含む看護学生691名で, 9月から3月まで行われたため, 現在も分析を継続している。また、今回の分析の結果から学生のイメージに基づいてシナリオからビデオ案を作成する予定であったが, 分析が充分でなくビデオ案作成までには至らなかった。平成29年度にはビデオを2本作成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(研究2)1.目的, 看護学生が臨地実習で認知症高齢者との困難な場面を想定してシナリオを考えビデオ作製による効果的な援助方法を考える。平成28年度の調査結果から, 全ての実習が終了した4年生が2年生に比べ認知症高齢者に対するイメージがやや否定的であった。草地ら(2007)や桂ら(2008)によると, SD法による認知症高齢者のイメージは実習を通じて肯定的に変化したと述べているが, 本研究において4年生は認知症高齢者との関わりが98.5%であり, 関わりが密であったため2年生に比べ否定的傾向にあったと考えられる。また4年生の臨地実習前の認知症高齢者の思いへの記述式では, コミュニケーションや対応の困難感, 不安感を表していた。これらのことから, 効果的な援助方法を考える必要性を感じた。2.研究方法(1)出演者は看護学生、看護師役、認知症高齢者役, 看護教員。(2)場所は大学の実習室で病室を設定する。3.研究期間は4月~11月まで4.(1)内容は例として, 認知症高齢者が学生に何度も同じことを言ってきて, 暴言を吐きその対応に苦慮している。そこへ実習指導者(教員)が訪問して効果的な対応を行う。その後学生とカンファレンスを行い, 認知症高齢者との対応方法について意見交換する。(2)シナリオを検討する。(3)モデル, 撮影者と打ち合わせを行う(4)ビデオの編集を依頼する。研究協力者は映像関係に詳しい大学教員や認知症認定看護師に依頼する。ビデオの撮影には専門のモデル・撮影者を依頼して行うが, 共同研究者が所属するA大学と研究協力者が所属するB大学の協力を得て行う。 (研究3)目的, 教育プログラムを作成して, 看護学生にビデオを視聴させ教育効果の評価を行う。ビデオを見せたグループを「介入群」見なかったグループを「非介入群」に分け, 認知症高齢者のイメージの変化があるか比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は, 看護学生の認知症高齢者の思いや考え及びイメージの把握、実習での関りの自記式質問紙による調査を行った。調査は6校の看護大学, 看護専門学校の看護学生691名で, 調査が9月から3月にかけて行われたため分析が充分にできなかった。そのため平成28年度はビデオの試案が作成できずに, ビデオ作成が遅れたため, 29年度に移行した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は, 平成28年度に使用しなかった515,332円を含めてビデオ作製2本を計画している。DVD作成費, データ加工撮影費用として1,000,000円予定。その他に出演者の謝金, 人件費として90,000円, 研究協力者の旅費100,000円, 消耗品代として27,732円とし, 合計1,215,332を研究分担者の費用とする。研究代表者には, 設備備品費として110,000円, 消耗品として20,000円, 国内費用として学会発表, 教育プログラム実施費用として150,000円, 海外旅費として学会発表のため200,000円, その他としてSPSSソフト200,000円, DVD3本90,000円, 通信費10,000円, 尺度購入20,000円の計320,000円とする。合計800,000円とする。研究代表者, 研究分担者ともに合わせて, 総計2,017,732円とする。
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