前年度に引き続き、高機能自閉症スペクトラム障害(HFASD)に関わる性行動の実態と性教育の実践についての調査を行った。愛知県日間賀島における中京地域の発達障害をもつ子ども及び青年たちのための合宿では、主に対人関係、友人関係および余暇に関する適応行動について、ASD当事者の実態把握、また、支援者にとっての課題を中心に情報収集をした。また、アメリカで行われたASDに関連する国際学会に参加し、本研究テーマに関するシンポジウムやポスター発表などで研究者たちとの情報交換をした。 国際的動向として、ASDの性行動に関する研究や支援実践は、主に青年・成人期の当事者の現在において、また彼らのライフステージを通した検討が中心となっている。しかし、思春期におけるアセスメントや予防的支援などには至っていない。普通教育における性に関する情報提供や性教育が限定されていることに加え、普通教育環境にいるASDを含めた発達障害特性を持つ青少年への性に関する教育的アプローチはほぼ皆無である。一方で、ASD当事者の中では少数派である女性の性行動をテーマとした研究は飛躍的に増加傾向であることがわかった。 29年度は、ASDの性行動を把握するための尺度項目をできるだけ具体的に絞り込む予定であったが、当事者やその家族に性に関して質問することの困難性やその実態の多様性がこれまでの調査で把握できたため、限定的かつ特異的な社会性に関する特性を持つ当事者の性行動を把握するアプローチを再検討することが中心となった。最も実践的に可能と思われるアプローチは、適応行動や感覚処理特性などの「見える」行動や振る舞いから当事者の性行動実態および支援の必要性を推測することであると現時点では結論付け、包括的アセスメントの一部として、より詳細な性行動に関する特性把握が可能な具体的質問項目を特定する作業へと若干の方向修正を行ってきた。
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