研究課題/領域番号 |
16K04805
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
二宮 信一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80382555)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地域型インクルーシブ教育 / ソーシャルキャピタル / 実践共同体 / 専門家 |
研究実績の概要 |
「地域型インクルーシブ教育」は、理論構築、実践方法論、専門家・専門職の支援方法という3つの領域で、構成している。理論構築の領域では、地域の状況を踏まえたものとして、地域型インクルーシブ教育(Localized Inclusive Education)を構想し、持続可能性と創造性を柱とした「地域型インクルーシブ教育の原則」を示し、「健康福祉」「民主主義・人権」「平等・公正」「読み書き能力」等のキーワードで構成するモデルを示し、共生社会またはソーシャル・インクルージョンに向かうための多様性を支持する価値観について検討した。 実践方法論の領域では、逆三角錐を基本形とする「地域型インクルーシブ教育分析モデル(LIEA-MODEL)」を作成し、地域分析や実践分析を通して、地域ごとの戦術・戦略を立案する方法について検討した。専門家・専門職の支援方法の領域では、地域の実践共同体を支援する専門職の支援方法について下関市豊浦町の実践を調査した。本実践では、障害のある子どもを育てる保護者のネットワーク形成、実践共同体の創出及び発展過程、それに伴う状況・文脈に応じた支援者の支援方法の戦略・戦術について明らかにした。また、根室管内における小学校の学校内改革を試みる教員の教員集団への関わり方について検討した。 報告としては、日本LD学会にて自主シンポジウムを開催し、2015年に視察したアイスランドのインクルーシブ教育の状況について、幼稚園、義務学校、特別支援学校、高等学校、職業訓練校の様子を報告し、日本のインクルーシブ教育推進のヒントについて議論した。また、地域型インクルーシブ教育分析モデルについては、北海道教育大学「へき地教育研究」第70号(2015)に論文を掲載し、同第71号(2016)にその援用の事例を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「地域型インクルーシブ教育」の理論構築、推進のための「地域型インクルーシブ教育分析モデル」の構想については、概ね目途が立ち、細部の検討に入る。特に地域型インクルーシブ教育と共生社会の関係について明示しなければならず、「地域型」であることの必要性について検討している。また、LIEA-MODELの活用について、現在、保育園の保育士集団の成長過程と支援者のかかわりについて時系列で分析している。また、高等学校の進路指導において、支援を要する子どもの就労までのプロセスを、進路指導部の活動を通して分析している。これに、下関を事例を加えて、日本LD学会にてシンポジウムを開催し、報告する予定である。 専門家の支援の在り方については、職種により状況に差異があるため、現在は、学校教員を中心に行っており、今後、医療・心理系の専門家の支援方法について、検討する必要がある。専門職の支援の在り方については、基本は溶暗的支援であると考えているが、「専門職に依存させるのが専門職の特性」というよりは、周囲の関係者が専門職に依存しているという課題であり、専門職がいかに周囲のものをエンパワーさせていくかという問題になっている。専門職がどのような志向をするかという問題は、養成段階から考えなければならない事柄もあり、専門職の新たな役割として当事者のエンパワーメント支援を視野に入れるという枠組みについて検討している。いずれにしても、「地域型インクルーシブ教育」は、CBR(地域に根差した療育)の発想を発展させているため、支援者のリーダーシップの在り方がキーとなり、また、それを支える「考え方」の共有が必須であるといえ、そのようなパラダイムの転換について、合わせて検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
地域型インクルーシブ教育の理論構築について今後は、「多様性」をキーワードに検討する。これまでマイノリティの承認という形での障害理解教育が行われていたが、むしろ重要なのは、マジョリティの中の多様性を発見することであり、その延長線上としてのマイノリティの存在という押さえの在り方について検討する。それは、マイノリティをマジョリティが同化、吸収することではなく、その存在を承認し、支持することであるので、その前提としてのマジョリティ内の同化、吸収が進んでいる状況の根源について明らかにしなければならない。 実践方法論については、LIEA-MODELを提案しているので、その汎用性について検討する。つまり、地域の実践をこのLIEA-MODELを活用して分析し、戦術・戦略を練り実証していくこととなる。その活用方法についての手順、手続きについて、示していく予定である。 専門家・専門職の支援方法については、溶暗的支援のための「触媒的支援」としての地域ネットワーク形成のほかに、当事者のエンパワーメントを促す支援の在り方について検討していく。これまで筆者は、支援の在り方について、コミュニティ心理学における社会的支援の「共感的支援」「道具的支援」「情報的支援」「評価的支援」をベースに、「触媒的支援」「溶暗的支援」を提唱してきた。当事者が主体となって課題解決に向かう「主体形成への支援」について、つまり、「地域型インクルーシブ教育」の担い手をどのように育てていくのかについて、検討する予定である。
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