聴覚障害児の日本語の読み能力と学習到達度について,標準化された包括的領域別読み能力検査CARDと標準学力検査NRTの評価を,全国の特別支援学校(聴覚障害)小学部の通常学級在籍児童139名を対象に2年間にわたって行った.その結果,①聴覚障害児の日本語読み能力は,健聴小学生に比べて,ことばの意味・聞きとり・音しらべに弱さが認められた.一方,文の問題に著しい弱さは認められなかった.②NRT国語・算数の偏差値の平均は,健聴小学生と比較して著しく低い結果ではなかった.③CARDの各下位検査とNRT国語・算数の偏差値との間に中程度の相関が認められた.④CARDの評価は聴覚障害児の学習到達度の予測とが可能であると考えられた.⑤聴覚障害児の日本語読み能力は,算数の学習に十分に活用されていない可能性が示唆された.⑥聴覚障害児は文や文章理解の中核的な方略に単語の意味を用いており,文法的知識が文や文章理解に活用されていない可能性が示唆された. また,第2の目的は,聴覚障害児童の日本語読解力モデルを構築し,典型児童モデルと比較すること(研究1),一年後の読解力や学力に対して言語ドメインや語彙指数が及ぼす影響を検討すること(研究2)にあった.対象は,研究1が139名,研究2が107名であった.その結果,読解・変数同士の相互の関係を伴う緩やかな線形モデルが示された.語音認知を基盤とする課題が読解力へ直接影響せず,心的辞書との関連は典型モデルに比して強く,語彙依存の読解方略が示唆された.研究2では,学力への書記言語や語の活用,文法的知識の活用の重要性がすべての分析から示唆された.また学力低下傾向を示す群では,さらに多くの要因が学力に影響を及ぼしていた.読解力向上のために学力階層別に要因を検討する必要があり,特定の言語ドメインへのアプローチを安易に聴覚障害全般に適用することの危険性を示唆するものであった.
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