研究課題/領域番号 |
16K04835
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
喜多尾 哲 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (70724615)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知的障害 / 弁別移行学習 / 学習過程 / 授業観察 / 学習評価 |
研究実績の概要 |
抽象的な次元性の反応が要求される2次元課題の達成が困難なDA4歳未満の児童生徒を対象に,1次元課題を用いて弁別逆転学習の反応型と発達検査との関連を検討した。知的障害児に1次元の弁別逆転学習を課し,学習達成までの学習曲線をもとに反応型の特徴を類型化した。類型化は次のように行った。まず先行学習において,A:4ブロック未満の所要試行数で学習を達成する。正反応率の落ち込みがなく,急激に正反応率が100%に到達するもの。B:学習達成までに4ブロック以上要し,正反応率の落ち込みが1回以上あるもの。C:正反応率40~60%の状態が5ブロック以上続き,その後,正反応率が急激に増加するもの。次に移行学習では,Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ:先行学習のA,B,Cにそれぞれ相当するもの。Ⅳ:最高許容試行数まで正反応率の上下やチャンスレベルの状態が続き,学習達成ができなかったもの。Ⅴ:逆転移行直後に誤反応が5試行以上続くもの。 この類型化の基準に沿って対象児7名の反応型を分類した結果,先行学習がA型,移行学習がⅡ型(以下A-Ⅱと略す)の対象児は2名,B-Ⅰ型3名,B-Ⅱ型2名であった。どの反応型においても認知・適応(C-A)領域のDA,DQが言語・社会(L-S)領域のそれらより高かった。A-ⅡはB-Ⅱに比べてC-A領域とL-S領域のDA・CA差が大きかった。B-Ⅰは他に比べてCAの値が高かった。 1次元課題は複数の手がかりを抽象化し,次元性の反応をする過程が簡略化される。対象児は逆転移行時に先行学習とは反対の手がかりを選択すればよい。B-Ⅰ型の対象児はいずれもCAが高かった。生活経験の長さが手がかりの転移を容易にさせたと思われる。また,2事例における発達検査成績の分析から,名称をことばで表現できなければ弁別学習の達成は遅くなること,数理解や比較など概念の獲得状況が学習の転移に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で記述した通り,知的障害児を対象に,弁別学習における反応パターンの類型化で得られた学習型を,発達検査の遂行状況を加味して分析し,特徴的な学習型と知能の型(結晶性知能と流動性知能)との関係性を把握するところまでは順調に進捗した。特徴的な学習型を示す児童の事例研究も行った。 次年度は,特別支援学校における学習行動および日常生活場面での行動観察を行い,そこでみられる子どもの学習・行動特性と弁別学習における学習型とを比較検討する予定である。そのために,今年度は研究業績の内容で記述した研究と並行して学習行動等の行動観察項目を作成し,次年度当初から協力校で観察ができる態勢を整えようと思っていた。しかしながら,現在,観察項目が確定していない状況である。 本研究の特色は知的障害児の学習型と学習の基礎となる能力(注意力,短期記憶力,言語能力等)との関係を明らかにすることにある。そのために,意欲・関心など通常の評価項目のほかに,対象児の“学習に有効な手がかりを見分ける力やその手がかりを保持する力”に対して適切な教示や教材呈示が行われていたか,という観点を盛り込みたいと思っている。そのような内容をどのようなオバートな行動から評価するか,その観察項目が確定できていないのが現状である。引き続き既存の認知・言語促進プログラムや学習アセスメントに関する文献を講読し,早急に観察項目を確定し,観察を実施する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
観察項目を早急に確定し,協力校で行動観察を行う。課題は「学習に有効な手がかりを見分ける力」「手がかりを保持する力」など「学習のしかた」を評価するためにどのような行動チェックしたらよいか,ということである。手がかりとして,筆者らが先行研究で用いた特研版集団適応行動評定スケール(東京学芸大学附属特殊教育研究施設,1998)およびその発展形のASIST学校適応スキルプロフィール,LCスケールなどの文献を参考にすることを考えている。それとともに,観察項目を決定するために協力校に赴き,実際に特別支援学校の児童生徒と接すること(予備調査)も考えている。 観察は筆者だけでは難しいので,勤務校の学制の協力を仰ぐようにしたい。また,対象事例を決定するにあたっては児童生徒の協力校での通知表等の学習・指導記録も提供してもらえるよう,協力校と交渉するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末における運営費交付金の執行期限後から新年度予算交付までの間の緊急の支出に備えて確保していたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は翌年度分の物品費と合わせて使用する。本報告書の作成時点で,前年度購入を計画していたレーザープリンター用カートリッジを次年度早々に購入,執行した。
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