研究課題/領域番号 |
16K04835
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
喜多尾 哲 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (70724615)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知的障害 / 弁別移行学習 / 学習過程 / 授業観察 / 学習評価 |
研究実績の概要 |
特別支援学校学習指導要領では知的障害児の学習特性として学習した内容が断片的であり,応用されにくいことを挙げている。知的障害児の学習評価のしかたを考えるうえで,手がかり獲得の速さや学習の転移の難易など,対象児の学習過程の特性を考慮することは重要である。 筆者は先行研究において弁別移行学習の反応型から学習転移容易者と困難者を類別し,それぞれについて新版K式発達検査結果成績を比較検討した。その結果,学習転移困難者は言語・社会領域のDA,DQが認知・適応領域のDA,DQより低いことを報告した。言語・社会領域は言語理解や一般的な知識の獲得に影響される結晶性知能と内容が共通するものが多く,認知・適応領域は流動性知能に深くかかわる内容が含まれているとされる。 先行研究の結果をもとに,今年度は2名の事例を対象に学習の転移の難易と学校での学習成績との関係を比較検討した。事例1は弁別移行学習の先行学習における学習の達成は速かったが,移行学習事態において新しい手掛かりへの転換に時間を要した。学校での学習状況は10までの合成,分解やひらがなの書字など,基礎的な知識,技能は習得している一方,応用面では信号の見分けは可能だが車に対する注意は不十分であるなど,大人に確認を求めたり,信号を見分けるという学習の意味を十分理解できていなかったりする面がみられた。事例2は先行学習の達成は誤試行もあり緩慢だったが,移行学習の達成は速い学習型であった。発語が少ないため,学習の速度は遅いが,絵カードを選択するなどの課題は達成できていた。挨拶の仕方を教えると対象の範囲が広がるなど,一度学習を達成すると,徐々に応用も可能になっていた。 学習の評価に関して,学習の転移に関して評価されていないことが多い。知的障害児に特有な応用力の乏しさを改善するためにも弁別学習の反応型を考慮した評価も必要であることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までの弁別移行学習の学習型の類型と新版K式発達検査の結果について,学習の転移が容易な対象児は困難な対象児に比べて知識の獲得や言語発達に関係する結晶性知能の発達が優勢であることを指摘した。これは2次元2価の弁別学習課題が可能な対象児はもちろんのこと,DAが5歳未満の対象児にもあてはまる。 昨年度はこの結果を踏まえて,特別支援学校の授業観察を行い,さらに,学校が作成した対象児の学習評価を参照することにより,上述の学習型類型と学校での学習活動との関係について検討した。基礎的な学習型の検討から実際の学校での学習活動との関係に目を向けることができたのは進展であった。しかしながら,学校の学習評価と弁別学習の学習型に影響を及ぼしている基礎的な学習能力を考慮した観察項目リストの作成には至っていない。学習の基礎となる能力には注意力,短期記憶力,概念形成力などが考えられるが,それらを評価するスケールがなかなか見いだせない。WISCなど,認知機能のプロフィールがみられる諸検査も知的障害児にとっては課題遂行が難しい。 そこで,現在着目しているのは学校での学習評価の際に用いられる観点別評価項目である。観点別評価には基礎的な知識技能の獲得のほか,それらを応用した思考・判断・表現の項目がある。学校の活動を,基礎的な知岸・技能の獲得の部分と,それを応用した活動にわけ,それに基づいた行動観察および学校での学習の記録等を参考に対象児の学習の仕方に着目した学習評価法について検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
知的障害児の「学習の仕方」に着目した学習評価項目を抽出するために,従来,ASIST学校適応スキルプロフィールおよびLCスケールを参考にしようと考えていた。しかし,これのスケールは学校での学習活動と直接結びつかないことが多かった。そこで,学校での学習評価のために導き出された観点別学習評価に着目する。観点別学習評価の観点は従来4項目だったが,次期学習指導要領では,育成を目指す資質・能力に準拠した「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理される。さらに,次期学習指導要領では「知識・技能」「思考・判断・表現」等に対応した目標および指導内容が教科ごとに詳細に示されている。これらを参考に,実際の学習の様子を観察,記録し,評価項目の作成につなげたいと考えている。 学習の転移にはより高次な認知過程が要求されるため,対象児は2次元2価弁別課題が可能な中学部,高等部の生徒を考えている。このため,再度弁別逆転学習を課し,学習の方を明確にさせたいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新年度予算交付までの緊急の支出に備えて確保していたものである。 (使用計画) 次年度分の図書等,物品費と合わせて使用する。
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