弁別逆転学習における学習過程の特徴を特別支援学校(知的障害)の学習評価,とくに学習の転移ないしは応用力の評価に生かすため,弁別学習の反応型と発達検査の成績,および特別支援学校での学習の記録との関連性を検討した。研究は弁別逆転学習の反応型の類型化,反応型と発達検査成績(発達年齢,発達指数,通過・不通過項目)との関連性の検討,反応型と学校での評価(成長の記録,通知表)との関連性の順で進めた。 本年度は2次元2価の逆転移行学習が困難な反応型を示す2事例を対象児とした。2事例の新版K式発達検査の成績についてみると,いずれも認知・適応領域の発達年齢に比べて一般的な知識などに関わりを持つ言語・社会領域の発達年齢が低かった。このことから,課題解決に際して適切な言語的手がかりを使用できるかどうかが,学習の転移の容易さを決める一因となるのではないかと考えた。2事例について3年前との経年的変化を比較すると,両事例とも逆転移行が困難であることに変わりはないが,事例1では先行学習と移行学習,事例2では先行学習の達成が大幅に促進された。発達検査の結果の経年的般化をみると言語・社会領域に比べて認知・適応領域の発達年齢に上昇が顕著であった。認知・適応領域は情報処理の速さ等に関係するといわれてる。両事例とも課題処理に関する知的能力が発達したため単純な弁別学習は効率的に達成できるようになったが,言語に関する能力がさほど伸展しなかったため,学習の転移が容易になるまでには至らなかったと考えた。 学校での応用力に関する学習記録においても弁別学習の反応型に対応している記述がみられた。日常生活面では生活年齢の上昇につれて自力でできる項目が増えたが,金銭の概念等基礎的な学習能力は上昇しなかった。このことから,学習の転移の様相を示す弁別学習の反応型は,学校での学習評価に生かされるのではないかと指摘した。
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