研究課題/領域番号 |
16K04844
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
生田 茂 大妻女子大学, 社会情報学部, 教授 (60112471)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 手作り教材 / 教育実践 / 情報処理技術 / ドットコード / 電子書籍 / 教材開発 |
研究実績の概要 |
平成 29 年度は,府中けやきの森学園の指導員を務めながら,平成 28 年度の府中けやきの森学園や筑波大学附属大塚特別支援学校の公開研究大会で「実践に取り組んでみたい」と新たに手の上がった全国の特別支援学校の先生を加えた総計約 180 名の学校の先生とともに,一人ひとりの困り感に対応した手作り教材の制作と教育実践に取り組んだ。 今年度もゼミ学生の応援を得ながら,「弱視の児童のための学校の先生の音読が付加された社会科の副読本の電子書籍の制作」「Bluetooth 機能を持つハンディなツールで,ドットコードシールにタッチするだけで,バスケットボールの模範演技を動画で鑑賞できる iPad 用の教材の制作」「学校の文化祭にやってくる地域の人に,シートにタッチするだけで学校の活動を動画で紹介できる教材の制作」「学校の先生の制作したオリジナルな曲で,リズミカルに算数の九九を学ぶことのできる音声ペンを用いた教材シートの制作」などを行なった。また,それぞれの学校の先生も,一人ひとりの児童生徒の抱える困り感や困難の軽減を目指して手作り教材を制作し,教育実践を行った。 こうした活動の成果を,International Association of Special Education 主催の 16th Biennial Conference で報告し,大きな反響を得,この学会で知り合ったアメリカのアイダホ州立大学の先生とともに協働の取り組みを始めることができた。また,現在,アメリカの IGI-Global社より出版される「世界の研究者や学校の先生の取り組みをまとめた本(Handmade Teaching Materials for Students With Disabilities)」の編集を行っている。日本発の取り組みを世界に発信する絶好の機会と捉え,取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マルチメディアをリンクできるドットコードを用いて,学校の先生とともに一人ひとりの困り感や抱える困難の軽減を目指して,手作り教材を開発し,開発した教材を用いて教育実践を行う本取り組みは,現在,全国の 180 名近い先生が参加する一大プロジェクトとなっている。 一人ひとりの児童生徒の抱える困難の程度も,学びの履歴やニーズも異なることから,一人ひとりに対応した手作り教材を制作し,支援することの大切さを共有しながら取り組んでいる。ドットコードを開発しているグリッドマーク社と協力しながら,情報処理技術を扱うことの苦手な先生でも,また,忙しくて「手作り教材を作る時間がない」という先生でも使えるような「使い勝手に優れた,操作が簡単なソフトウエアの開発」を行い,この間,手作り教材を制作するための4つのソフトウエアをリリースした。これまでの Windows PC だけでなく,多くの学校に導入されている iPad 用のソフトウエアを開発し,学校の先生には,音声や動画などをリンクできる手作りの「剥がして貼れるシート」とともに,無償で貸与している。 現在編集作業を行なっているアメリカの IGI-Global 社の本作りには,日本から筑波大学の附属学校の2報を始めとして8報を採択し,世界中から 16 本の Chapter Paper を集めることができた。日本の特別支援学校の取り組みを世界に発信する絶好の機会と捉え,全力で取り組んでいる。 本研究は,学校の先生との共同の取り組みであり,学校の先生の「研究する情熱を醸成し,支援する」ものである。簡単に市販の教材を購入するのではなく,自分のクラスの児童一人ひとりの顔を思い浮かべながら,困り感の軽減を目指して,全国の仲間に学びながら取り組む貴重な学びの場でもある。大きく成長したプロジェクトを,本研究費を活用しながら,引き続き発展させて行きたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
児童生徒一人ひとりの困り感や抱える困難の軽減を目指して,手作り教材を制作し,教育実践に取り組む本研究活動は,全国の 180 名近くの特別支援学校の先生を中心とする1大ネットワークとなっている。また,国内だけでなく,アメリカ,中国,韓国,オマーン,UAE,サウジアラビアの研究者や学校の先生とのネットワークとなっている。「マルチメディアを扱えるドットコード」と「テキストをハイライトしながら読み聞かせを実現する電子書籍」の技術を活用し,一人ひとりの児童生徒の困り感に対応した手作り教材を制作する取り組みは,まさに,一人ひとりの個別支援計画や合理的配慮指針に基づく取り組みであり,インクルージョン教育を支える教育環境を整える上で貴重なものとなっている。学校の先生たちの真摯な取り組み,世界の学校の先生の様々な取り組みに学びながら,新しい技術を開発し,「これまでは不可能だったことを一つひとつ実現していく」ものである。これまでの Windows PC を用いた教材開発だけでなく,iPad や iPhoneに対応した新しいソフトウエアの開発,これまでの音声ペンに加えて Bluetooth 機能を有する新しいスキャナーペンの開発など,学校の先生がたの教材開発や教育実践の環境を大きく改善する努力を引き続き行ないたいと考える。 国際的な共同の取り組みを加速することで,世界的に取り組みが進められているインクルージョン教育に必須の情報処理技術やツール,その現状や課題を明らかにすることができるものと期待される。今年度は,本科学研究費補助金の最終年度として,これまでの成果をまとめる努力を行うとともに,IGI-Global の本の出版を成功させ,日本の特別支援教育の現状を世界に発信するとともに,来年度以降の新たな取り組みを創出する努力を行いたいと考える。教育実践にあたっては人権に配慮した取り組みを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成 30 年度の6月にアメリカのシカゴで開催される ISTE2018 で,これまでの成果を発表し,アメリカを始めとする研究者や学校の先生と本研究の取り組みを共有するために,平成 29 年度の経費の一部を繰り越すこととした。また,学校の先生が教材制作に用いるソフトウエアのライセンスを購入するのにも活用する。
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備考 |
科学研究費や大妻女子大学の戦略的個人研究費を用いて行っている,国内の特別支援学校を中心とする学校の先生との共同の取り組み,アメリカ,中国,韓国,オマーン,UAE,サウジアラビアなどの外国の研究者や学校の先生との共同の取り組みなどを紹介している。
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