研究課題/領域番号 |
16K04848
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
松永 信介 東京工科大学, メディア学部, 准教授 (60318871)
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研究分担者 |
稲葉 竹俊 東京工科大学, 教養学環, 教授 (10386766)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | KABC-II / 特別支援教育 / 算数障がい / 聴覚障がい / 算術習得 / 学習者特性 / AHS / 視線分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年の調査でその存在が認識されるようになってきた算数障がいを抱えるろう児(算数困難ろう児)を主対象とする学習支援であり、日常文脈での実用的算術力を醸成するための学習者特性適応型eラーニングシステムの構築を目指すものである。 平成28年度に掲げた研究目的は大きく三つあった。 第一は、対象児童の基礎的な算術力や語彙力・読解力、さらには聴力や認知特性に関する実態調査である。これらについては、研究協力先(東京都内のろう学校)の児童への事前調査ならびに担任からのヒアリングを通じて類型化を行った。また、本研究では、認知特性に関してKABC-II検査の指標も採用する方向で進めており、その検査手法と手続きに関する確認も行った。 第二は、各種教材の開発と視線特性を分析するためのアイトラッカーの準備である。前者の教材開発に関しては、黒板を模した背景に分かち書きで問題文が表示されるデザインを基本とし、さらに解答に悩んだときのヒントを間接的から直接的への3段階で提示する仕様として進める方針とした。また、問題解説については、図解式の2段階構成とした。これらの仕様に基づく実践使用の効果は高く、多くの対象児に論理的に理解する姿勢が窺えた。一方,後者のアイトラッカーに関しては、プロトタイプ教材を用いての試用実験から始めたが、対象児の視線推移や注視箇所などを分析し、その後の学習における問題文の読み方の癖などの矯正に一定の効果を確認した。 第三は、AHSを機能させるための学習者特性の因子の選定とそれに基づく学習者モデルの形成である。AHSに関しては、KABC-II検査の結果を一部反映させるため、従来のシステム構成からの必要な変更の検討を行った。一方の学習者特性に関しては、算術力や語彙力などの基礎学力とともに、KABC-IIで測れる継時処理や同時処理などの能力を特性因子として組み入れることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は、「KABC-II運用方針の策定」「コース設計・教材開発」「AHSの組み込み」に大別される。 最初の「KABC-II運用方針の策定」に関しては、まず年度前半のベーシック講習会を通じて、認知・習得の両尺度の構成や細目の意味合いについて習熟した。また、年度半ばに開催された日本特殊教育学会において、KABC-II検査に精通している研究者との議論をもとに、その活用方針について暫定策定した。研究協力先のスケジュールにより、前倒しでの児童への検査実施には至らなかったが、翌年度に向けての準備が整い、目標は十分に達成されたと考える。 次の「コース設計・教材開発」に関しては、研究協力先の要望を取り入れる形で、文章題の題材の検討やヒント提示の構造化などを行い、コースマップを作成した。そして、このコースマップ内の一部を事前調査用のプロトタイプ教材として開発し、児童の基礎学力や視線特性に関するデータ収集に活用した。さらに、それらのデータ分析結果に基づき、当初予定の初級編教材を開発して年度後半に授業実践・評価を行い、一定の学習効果を確認した。児童の既有知識や認知レベルに大きな差があり、デザインに多少課題を残したが、ほぼ予定通りの進捗であった。 最後の「AHSの組み込み」に関しては、学習者自身に関わる特性と問題の難易度や提示方法に関わる特性を区分けしてシステムを構築する方針とした。このうち、前者の学習者の特性は、当該年度の対象児童の算術力や語彙力、聴力、視線特性などの基本プロファイルを簡易データベース化した。一方、後者の問題に関する特性は、同じ問題でも数種類のデザインを用意することにより、特性適応の精度を高める設計まで進んでおり、概ね目標は達成されたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究のねらいは、AHSの暫定運用と中級編・上級編教材の設計・開発であり、これらは申請時のスケジュール通りに進める。前者のAHSに関しては、研究協力先であるダンボおよびろう学校に新たに加わる児童の各種特性に関する情報をデータベースに追記した上で運用を開始する。そして、この特性には、KABC-IIの検査結果を可能な限り反映させる予定である。後者の教材に関しては、文章が少し複雑になるため、語彙力や読解力に適応できるよう、問題のバリエーションを増やすことともに、辞書機能を搭載する予定である。また、すでに実装しているヒント要素の拡充と視線誘導のためのハイライト機能の強化を行う。なお、KABC-IIに関しては、より高度な検査が可能なアドバンスト講習も年度後半に受ける予定である。 最終の平成30年度は、当初の計画通り、評価と改善が主たる作業となる。教材の適応性ならびに学習者特性因子の妥当性の検証を行い、必要な改善を施した上で全体システムを完成させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の未消化分は、アイトラッカーシステムの購入延期が大きく影響している。想定したTobii社製の機種が平成29年度にリニューアル発売されることとなり、当初の予定を変更して購入を見送った。なお、平成28年度の研究においては、既有の旧システムを代用していたが、システムの移行に関して問題がないことを確認している。また、人件費・謝金の未消化分は、事前調査や授業実践、実験のデータ処理、教材コンテンツのアーカイブ化などに初年度はそれほど手間を要しなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費に関しては、平成29年度半ばにアイトラッカーの新機種を購入予定である。また、OSやデバイスによる環境依存がないかを検証するため、数種の実験用モバイル端末やPCも購入する。一方、人件費・謝金の繰越し分については、平成29年度分として計上している予算と合わせて、現在仮運用の学習管理システムを教員・保護者・児童が利用するポータルサイトに移行するための委託経費に充てる予定である。
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