平成30年度は,昨年度予備的に実施した障害平等研修をモデルとした障害の社会モデルを学ぶ学習プログラムを,参加者からインフォームドコンセントを取ったうえでビデオ録画しつつ行った。いつくかのグループのディスカッションシーンを選定のうえ,トランスクリプト作成し,会話分析を行った。その結果,問いが進むにつれて参加学生が「障害」という概念を一旦脱構成し,新たな障害の社会モデル的視点を自らの発見によって獲得していくプロセスが明らかになった。また,加えてそこには次のような要因が働いていた。①発問の意図を読む行為,回答にオリジナリティを求める評価基準,②誰の視点で「障害」を捉えるかという視点の移動,③イラストによる②の触発とユーモアによる固執からの解放。本来,障害平等研修は障害者当事者がファシリテーターを務めるが,本研究では制約もあり,通常のグループ学習の延長上で行われた。結果として,クラスメイトに自らの特性について明かしていない発達障害のある学生にとっては,自身の障害とは距離を取りつつも,障害について語ることをタブーとすることなく議論に参加でき,自助にもつながる経験を得ていた。 本研究を通じて,見えにくい障害である発達障害,それを周囲の者に開示することは望まない本人や保護者の希望,そうした高専の条件下で周囲の理解を進める方法を実践研究を通して模索してきた。その結果,ある程度形式がマニュアル化されたグループ活動で,普段はあまり話すことのないクラスメイトと接触機会を持つこと,障害の有無にかかわらず,クラス全体で取り組む障害の社会モデル学習によって学生らが自らの平等主義的価値観を刺激し,多様性について考えることが有効に働くことがわかった。また最終年度にはニュージーランドの高等教育機関の障害学生支援部門を訪問し,障害者差別解消法施行によって転換期を迎えた障害学生支援の再整備に向けた示唆を得た。
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