研究課題/領域番号 |
16K04862
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研究機関 | 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 |
研究代表者 |
笹森 洋樹 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, 発達障害教育推進センター, 上席総括研究員 (40419940)
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研究分担者 |
若林 上総 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所, 研修事業部, 主任研究員 (10756000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 通級による指導 / 中学校 / インクルーシブ教育システム / 現状と課題 / 発達障害 / 生徒のニーズ把握 |
研究実績の概要 |
本研究では中学校における通級による指導の課題として、① 生徒の指導、② 担当者の専門性、③ 教室運営、④ 在籍校・学級との連携、⑤ 保護者との協働の5つの課題があり、中学校において広がらない理由として、① 思春期にある生徒のニーズ把握の難しさ、② 教師の気づきのシステム、③ 通級による指導の校内の位置づけ、④ 周囲の理解と周知の不足などの4つの視点を指摘した。 今年度は、生徒のニーズの把握と担当者の専門性に焦点を当てた。思春期にある中学生には、心と身体の不一致、不安や衝動の高まり、他者の目への意識、万能感の揺らぎや自分探しの迷走など様々な発達上の課題が指摘される。発達障害がある生徒の場合は、失敗経験等による低い自己評価やもちにくい自己効力感、対応策が見えない周囲との違和感、疎外感への気づき、自覚しにくい場の空気の読み方の違い、ズレなども想定される。これらの課題は対人関係も含めた周囲の環境との関係で理解することが重要になる。保護者アンケートによれば、中学校入学時に面談を行ったのは6割、面談をしない理由は「様子を見てから」「特別扱いされたくない」等。担任には「こまめに声をかけてもらっている」一方で、「あまり声をかけないようにしてもらっている」もあり、保護者の願いにも違いが見える。 通級による指導での効果的な指導が在籍学級に活かされることは、合理的配慮にもつながっていく。通級による指導の担当者には、合理的配慮に関する助言者、支援者の役割も担うことが求められる。① 生徒の指導、② 担任等に対するコンサルテーション、③ 保護者の教育相談の3つの専門性が重要になる。通級による指導の担当者には、通常の教育と特別支援教育の両面から集団の中での個別的な指導・支援という視点がもてること、通級による指導で得られた知見をわかりやすく周囲に伝え、生徒の支援者を増やしていくことが重要な役割になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中学校における通級の5つの課題と広がらない理由の4つの視点は、システム上の問題と指導上の問題の大きく2つに分けられる。5つの課題の中の① 教室経営、④ 在籍校・学級との連携と、広がらない理由の③ 通級による指導の校内の位置づけ、④ 周囲の理解と周知の不足などはシステム上の問題であり、5つの課題の① 生徒の指導、② 担当者の専門性、⑤ 保護者との協働と、広がらない理由の① 思春期にある生徒のニーズ把握の難しさ、② 教師の気づきのシステム等は指導上の問題である。それらの内容を整理した上で、研究協力者等と協議を重ね、具体的な課題解決の方策について研究をまとめていく。 平成30年度より高等学校においても通級による指導が開始され、国立特別支援教育総合研究所(2018)は導入段階における10のポイントをまとめている。① 教職員全体の共通理解、② 校内の支援リソースの機能と役割、③ 担当教員の配置と専門性、④ 意義や目的に関する説明と周知、⑤ 関係機関との連携、地域資源の活用、⑥ 生徒のニーズ把握と通級の判断、⑦ 特別の教育課程の編成、⑧ 通級による指導の指導内容、⑨ 指導の評価と単位認定、⑩ 進路に関する指導である。中学校にも共通する部分が多い。 その中でも「生徒のニーズの把握」と「担当者の専門性」については、中学校、高等学校の通級による指導においては特に重要な要素と考えられることから、今年度はそこに焦点を当てた。問題を整理し、具体的な課題解決の方策についてまとめていく段階において、教育委員会や通級による指導の担当者等の支援者側からの意見だけでなく、本人や保護者等の通級による指導の利用者側から意見を収集することも重要であると考え情報収集を行った。より根拠のある研究としてまとめていくため、研究期間を一年間延長し、本人や保護者等からも意見を収集する調査等の機会を設けることとした。
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今後の研究の推進方策 |
インクルーシブ教育システムにおいて通級による指導は連続性のある多様な学びの場の一つとしてさらなる充実が求められる。本研究の目的は、小学校に比べ設置が極端に少ない中学校の通級指導教室について、その現状と課題について整理し、具体的な課題解決の方策についてまとめ、様々な課題を抱える思春期における通級による指導の在り方について提言することである。 研究の進捗に当たっては、中学校における通級による指導の5つの課題と広がらない理由の4つの視点について、それらの内容を整理した上で、研究協力者等と協議を重ねることにより、具体的な課題解決の方策について研究をまとめていく。問題を整理し、具体的な課題解決の方策についてまとめていく段階において、教育委員会や通級による指導の担当者等の支援者側からの意見だけでなく、本人や保護者等の通級による指導の利用者側から意見を収集することも重要であると考え、より根拠のある研究としてまとめていくため本人や保護者等からも意見を収集する調査等の機会を設けることとする。 研究のまとめに当たっては、生涯にわたる切れ目のない支援の視点からも中学校通級指導教室だけでなく、必要に応じて、小学校通級指導教室及び中学校とも共通部分の多い高等学校通級指導教室からも参考となる情報を収集したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
問題を整理し具体的な課題解決の方策についてまとめていく段階において、教育委員会や通級による指導の担当者等の支援者側からの意見だけでなく、本人や保護者等の通級による指導の利用者側から意見を収集することも重要であると考え、本人や保護者等からも意見を収集する調査等を実施するための費用が必要である。また、生涯にわたる切れ目のない支援の視点からも中学校通級指導教室だけでなく、小学校通級指導教室及び高等学校通級指導教室からも情報収集するため、旅費が必要である。
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