研究課題/領域番号 |
16K04864
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 宗太 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任准教授 (40401129)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自己組織化 / 大環状芳香族化合物 / アルカリ金属 / リチウム電池 |
研究実績の概要 |
本研究では,中心部に空孔を有する大環状芳香族分子を合成し,その空孔が1次元に整列した結晶性集積固体の構築,機能開拓をめざしている.どのような分子内・分子間相互作用が結晶構造の構築に寄与しているかについては,これまでに合成した大環状芳香族分子の結晶構造解析の知見が集まってきている.これらの知見をもとに分子設計を行い,結晶化の手法や用いる結晶化溶媒,温度などの条件をスクリーニングして1次元チャンネル構造をもつ結晶構造を探索してきている. 当該年度においては,研究実施計画に基づいて,大環状芳香族分子の合成・細孔性結晶の構築・官能基の空間配置を達成した.ニッケル触媒を用いた山本型カップリング反応を基軸に,新しい芳香族分子ユニットを採用し,その環状化反応を行うことで新規大環状芳香族分子を多数合成できてきている.それらの一部はすでに原著論文として発表するに至っている.新しい分子がどのような結晶性集積構造を与えるかは,過去の知見をもとに予測しながら分子設計しているものの,必ずしも予想通りの結晶構造が得られるわけではなかった.中央部の空孔を埋める結晶化溶媒が結晶構造全体の構築にも寄与するため,溶解度とともに,溶媒分子の極性や大きさ,官能基の種類なども考慮して結晶化をスクリーニングした.その結果,全ての分子に対してではないものの,中央部の空孔が1次元配列したチャンネル構造を持つ結晶の調製,およびその単結晶X線構造解析を達成することができている.分子量が大きな大環状芳香族分子は,空孔も大きく,その内部の溶媒分子は激しくディスオーダーして観測されるため,放射光X線を用いた結晶構造解析も行い,最新のX線構造解析法を用いて構造決定に至ることができた.例えばアルコキシ基を有する大環状芳香族分子からは,結晶内で官能基が整然と配置された1次元チャンネル構造を見いだすことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に従って研究を進めることができたことに留まらず,それ以上に順調に研究が進展してきている.ニッケル触媒を用いた山本型カップリング反応をうまく活用することで多様な大環状芳香族分子の合成を順調に進めることができた.新しい芳香族分子ユニットの採用や,これまでに検討してこなかった官能基の配置にも関わらず,大環状化反応が問題なく進行し,新規構造の大環状芳香族分子の単離・構造決定に至った.集積構造の解明においては,ラボ機と放射光X線を用いた回折計とを併用することで,次々とX線結晶構造解析を完了することができ,当初計画以上に順調に進展させることができてきている.成果発表に関しても,複数報の原著論文として成果報告するに至っており,その他学会発表や解説記事の執筆など,当初の予想以上に精力的に発表できてきている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の展開としては,順調に展開できてきている大環状芳香族分子の合成をさらに進めながら,基盤となる分子構造の多様性を広げ,どのような官能基の導入が可能か,量を供給できてさらなる機能発現に大きく展開できる分子構造は何か,といった基本的知見の集積を行う.並行して,得られた1次元ナノチャンネル構造をもつ結晶性固体の構造的安定性の評価を行い,チャンネル内の結晶化溶媒を除去できるか,入れ替えることができるか,検討を重ねる.その一環として,チャンネル内を空にすることができるものに対しては気体吸着特性の測定を行い,ガスの出入りに対する細孔の安定性,ガスの吸着と細孔内の官能基など化学構造との相関を見いだすための検討を行う.特に,分子構造が大きく,空孔内の溶媒分子の配置がかわりやすいことに留意し,試料の形態が単結晶状態と粉末状態では構造が変化する可能性も視野にいれて,各種解析法を総合的に用いることで,間違えのない,明確な分子集積構造とその機能の解明に務める.また,必要に応じて,分子設計,分子内・分子間相互作用の理解,機能発現の原理の理解といった目的で,適切な理論化学の手法も併用していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
東北大学から東京大学への研究室の移動があり,当初予定よりも物品費を使わなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に,実験検討用の器具や有機試薬・無機試薬の購入を行うための物品費として使用する.
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