研究課題
本研究では,芳香族有機分子をユニットとして環状に連結させた大環状芳香族分子を対象として用い,分子構造およびその結晶性粉体の調製法を工夫することで,ナノ細孔性の固体を得る.大環状分子の中心部の空孔が連なって生じる独特なナノ細孔構造を生かし,そのその固有の機能を探索する.これまでに,新しい大環状芳香族分子を設計して合成し,その結晶性粉体における分子充填構造を解明するに至っている.本年度は,当初計画に従って,ナノ細孔の物性評価に着手し,ガス吸着特性やゲスト分子包接・交換の特性を明らかにすることができた.溶媒中での再結晶化においては,大環状芳香族分子を溶媒和している溶媒分子が結晶化に伴い脱離するために,エントロピー駆動型で結晶成長が進行する場合があると考えられ,そのために,一見すると不安定な空隙の大きいナノ細孔を有する結晶性粉体が調製できることがわかってきた.熱重量測定や示差走査熱量測定,また,熱処理や化学処理した試料の粉末X線パターンを測定することによって,結晶性粉体の安定性の評価に成功し,試料調製時にはナノ細孔を埋めている溶媒分子を除去しても,ナノ細孔構造は安定に保たれる条件を見いだすに至っている.さらに,この「空になった」ナノ細孔に対して,ゲスト分子としてガス分子が認識され,ガス吸着が進行することがわかってきた.いったん吸着したガス分子は,スムーズに除去できることもわかってきた.さらに,分子構造を精密に決定し得る分子性結晶である利点を生かし,ナノ細孔への溶媒包接やガス分子の吸着,また,空になったナノ細孔の状態を,粉末X線回折測定を駆使することで解明することに成功した.
1: 当初の計画以上に進展している
ナノ細孔を有する結晶性固体の調製に成功し,その細孔の特性を明らかにするためにガス吸着実験を実施した.真空下で加熱すると,当初,細孔内を満たしていた溶媒分子を除去できることを見いだし,最終的に,結晶性粉体である利点を生かして粉末X線回折を取得でき,構造解析の結果,電子密度から判断しても細孔内を空にできていいることを見いだすに至った.さらに,真空下で溶媒を除去した試料に対してガス吸着を行うと,吸着されたガスが高密度に細孔内に充填されることを見いだし,その条件下で粉末X線回折を行い,構造解析を行ったところ,吸着されたガス分子もモデル化することができた.結晶性粉体試料である利点を十分に生かし,粉末X線回折を駆使して細孔内の物質の出入りを精密に可視化できたことは,当初の計画・予想を上回る成果であり,ナノ細孔試料の特性を十分に引き出せたと考えている.また,成果発表に関しても,複数報の原著論文として成果報告するに至っており,その他学会発表や解説記事の執筆など,当初の予想以上に精力的に発表できてきている.
合成し,その結晶性粉体における分子充填構造が明らかになってきている大環状芳香族分子を用い,固体や液体の電解質を用いた,電極材料としての性能評価を行う.国内の共同研究者と性能評価を行う打ち合わせをすでに行ってきており,試料準備が整い次第,順次,電池デバイスを構築して検討を進めていく.性能評価の結果をフィードバックする形で,電池作製の条件に加えて,粉体試料の調製条件も改善することで,新しい電極材料としての利点を見いだし,科学的に有意義な知見を得られるように留意して研究を推進する.また,バルクの粉体試料に対しても,アルカリ金属やアルカリ土類金属をドープした大環状芳香族分子を調製できれば,導電特性を制御でき,さらには超伝導性の発現も期待できる.また,ナノ細孔内に金属原子がクラスター化することで超伝導性が発現する可能性もあり,従来の炭素材料を越えた可能性に期待している.挑戦的な課題ではあるが,新しい応用展開をめざして,これらのドープ実験を検討する.不活性雰囲気下において溶媒中で,大環状芳香族分子と金属とを混合して穏やかに反応を行うなどの条件により,ドープ試料の調製をめざし,ドープされた分子構造を単結晶X線構造解析を中心として解明する.さらに,物性評価については,国内の共同利用施設をすでに利用申請済みであり,試料調製が完了すればいつでも実施可能な状況である.
(理由)H28年度に東北大学から東京大学への研究室の移動があり,H28年度からの次年度使用額が大きかったため,当初予定よりも物品費を使わなかった.(使用計画)次年度に,実験検討用の器具や有機試薬・無機試薬の購入を行うための物品費として使用する.
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すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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