研究課題/領域番号 |
16K04867
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研究機関 | 千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
大越 研人 千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (60500139)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 液晶 / スメクチック相 / 枯渇作用 / 配向 / 高圧 / 小角X線散乱 / エントロピー / ナノパターニング |
研究実績の概要 |
分子量分布を非常に狭く調整した棒状の高分子(ポリシラン)が形成するスメクチック相と呼ばれる層状の液晶相に、棒状高分子の直径と同程度の大きさの球状分子(テトラアルキルシラン)を混合すると、テトラアルキルシランが選択的に層間に偏析し層間隔をほぼ定量的に広げる。本研究は、この基礎的な発見に基づき、以下の点を明らかにすることを目的に行う。①テトラアルキルシランのサイズ特異的なナノ相分離によるラメラ構造発現のメカニズムを解明する。②ポリシランが液晶配向膜により配向制御できることを利用して、発現する10-50 nmの間隔の層状構造を基板上に配向展開し、金属ナノパターニングのテンプレートとして利用する。本年度の研究実績は以下の通りである。 ①ポリシラン/テトラアルキルシラン混合系の、静水圧型X線散乱用高圧セルを用いた高圧下での小角X線散乱測定を、高エネルギー加速器研究機構Photon Factory(2017G606)、高輝度光科学研究センターSpring-8(2019A1538)に於いて行った。その結果、全ての混合比において高圧力下での球状分子の偏析の促進を確認した。これは、偏析が詰め込みのエントロピーの利得を駆動力として発現していることの証左であると考えられる。 ②基板上にポリシラン/テトラアルキルシラン混合系を展開し、テトラアルキルシランの良溶媒かつポリシランの貧溶媒で洗浄してテトラアルキルシランのみを洗い出し、層状のテンプレートを基板上に展開する検討を行った。側鎖炭素数6のポリシランを用いたところ、選択的にテトラアルキルシランを除去し、ポリシランの層状構造のみを基板上に残すことが出来た。これをマスクとして用いて、CHF3ガスを用いたプラズマエッチングによるシリコン基板のナノパターニングを行ったところ、スメクチック相の層構造を5nmの深さで基板に転写することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①テトラアルキルシランの混合によるスメクチック相の層間隔の増大は、完全に層間に偏析する場合に予測される値より小さく、混合比が大きくなるにつれてその乖離は広がっていく。そこで、静水圧型X線散乱用高圧セルを用いて、100 MPa高圧下での混合サンプルの小角X線散乱測定を行った。その結果、圧力を掛けることにより全ての混合比でテトラアルキルシランの層間への偏析は促進されていることを見出した。 ②基板上にポリシラン/テトラアルキルシラン混合系を展開し、テトラアルキルシランの良溶媒かつポリシランの貧溶媒である2-ブタノンで洗浄して球状分子のみを洗い出し、層状のテンプレートを基板上に展開する検討を行った。ここまで検討してきた側鎖炭素数8,10,12のポリシランでは、テトラアルキルシランは除去できるがポリシランも膨潤してしまい層状構造を保てなかったが、側鎖炭素数6のポリシランを用いたところ、選択的に球状分子を除去し、ポリシランの層状構造のみを基板上に残すことが出来た。テトラアルキルシラン混合比の検討を行い、25%以上混合すると層間隔が不均一に広がることが明らかとなった。そこで、テトラアルキルシラン混合比20%のポリシラン/テトラアルキルシラン混合系をシリコン基板上に展開し、2-ブタノンで洗浄してテトラアルキルシランのみを洗い出し、これをマスクとして用いて、CHF3ガスを用いたプラズマエッチングによるシリコン基板のナノパターニングを行ったところ、スメクチック相の層構造を基板に転写することに成功した。ポリシラン膜厚70nmで5nmの深さのラインパターニングが可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
①棒状高分子/球状分子混合系は高圧下ではマクロな相分離を示すことが理論的に予測されている。混合サンプルの高圧小角X線散乱測定を行い、圧力、温度、混合比の関数として、混合系の液晶相挙動の全体像を解明する。 ②スピンコート条件の検討により膜厚を200 nm程度まで増やし、下地シリコン基板の20nm程度の深堀を検討する。同時に、液晶配向膜によるポリシランの配向制御を行い、直線描画の検討、および下地を金属薄膜に替えて禁則ナノパターニングの検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実施に決定的な役割を果たす高圧X線回折実験が、当初計画通りに実施できていないため、次年度も本実験課題でビームタイム配分を受けるため。 高エネルギー加速器研究機構Photon Factory(2017G606)および、高輝度光科学研究センターSpring-8(2019A1538)のビームタイム配分を受けており、旅費、消耗品費として使用予定である。
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