棒状の粒子に球状の粒子を混合すると、棒状の粒子が形成するスメクチック相と呼ばれる層状構造の層間に、球状粒子が選択的に挿入されることが理論的に予測されている。この理論的予測は、分子量を非常に狭く調整した剛直棒状高分子であるポリシランに、球状分子であるテトラアルキルシランを混合すると、ポリシランの形成するスメクチック相の層間にテトラアルキルシランが選択的に挿入され層間隔を広げることから、実験的に再現することが確認されている。本研究は、これらの発見に基づき、①無極性で剛直な分子系で起こる構造形成メカニズムの解明、および②発現する構造をテンプレートに用いた金属ナノパターニングとそのワイヤーグリッド偏光子への応用、の2点を明らかにするために行った。 研究実績は以下の通りである。①分子動力学計算によるモデリングの結果、スメクチック相の層間に選択的に偏析するテトラアルキルシランの直径は、ポリシランの円筒直径とほぼ等しくなっていることを見出した。この組み合わせの混合系を用いて静水圧型X線散乱用高圧セルを用いた高圧下での小角X線散乱測定を行ったところ、高圧下で球状分子の偏析が促進されることが分かった。これは、偏析が詰め込みのエントロピーの利得を駆動力として発現していることの証左であると考えられるが、200MPa程度以上の高圧になると層間が圧縮されるために電子密度のコントラストがつかなくなり、X線反射が消失するために挙動を追うことが出来なかった。②この組み合わせの混合系をシリコン基板上に展開し、テトラアルキルシランのみを選択的に溶媒洗浄で除去し、CF4ガスを用いたプラズマエッチングを行ったところ、スメクチック相の層構造を5nmの深さで基板に転写することに成功した。基板上のAl蒸着膜もArガスを用いたプラズマエッチングにより同様にパターニングできることが分かった。
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