今年度はトポロジカル絶縁体を含めたトポロジカルな物質および現象の研究に取り組んだ。最初に行ったのが、ワイル半金属のフェルミアークの計算である。ワイル半金属とは物質の時間反転対称性または空間反転対称性が破れたような系においてエネルギー分散を考えたとき、縮退していたDirac点がWeyl点へと分裂した物質である。その表面においてはトポロジカルに保護されたフェルミアークが現れる。 トポロジカル絶縁体と通常の絶縁体との超格子を使った多層構造を用いると、ワイル半金属を実現させることが出来ることが、BurkovとBalentsによって発表されていたが、彼らは具体的なフェルミアークの計算を行っていなかった。そこで、このモデルにおいてフェルミアークの電子構造を得ることを目的にした。その結果、数値計算でフェルミアークを具体的に求めることに成功した。 次に磁性体で観測されるスカーミオンという磁気構造を計算で求めた。スカーミオンは、スカーミオンチャージというトポロジカル不変量で特徴づけられ、それによって、電流を流した時の振る舞いが違い、電流の流れる方向に対して、その方向から偏向することがある。一般に、スカーミオン・ホール効果と呼ばれている。そのスカーミオン・ホール効果を実際の物質のパラメータを使ってLLG方程式を解いてシミュレーションを行い、スカーミオン・ホール角のギルバートダンピング定数依存性を求めることに成功した。 もう一つ行ったのは、2018年にSchindler等によって、初めて予想された高次トポロジカル絶縁体において、その論文で使用された2次トポロジカル絶縁体のハミルトニアンに2次近接摂動を加えた際の振る舞いを研究した。そして、その相図を求めることに成功した。さらに、元になった1次トポロジカル絶縁体と2次トポロジカル絶縁体の位相不変量の間に成立する関係を推測することを行った。
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