1つの光子の照射により、量子ドット内に多数個のキャリアが生成されるコロイド状の半導体量子ドットは、そのキャリア増幅現象により、次世代の超高効率太陽電池材料として注目されている。ただし、増幅したキャリアは量子ドット内で互いに衝突する、または外部電極に伝搬するまでに捕獲されることにより熱として消失するため、増幅分のキャリアを抽出することが現状では困難である。本研究では、量子ドット内で増幅したキャリアを、共振器構造を備えた素子を利用することにより高効率に取り出すという、新しいキャリア抽出法の開発に取り組む。その開発に向け、本年度は下記の三項目を実施した。 一項目は量子ドットの高品質化である。昨年度は、高効率なキャリアの増幅と、その高効率な抽出が期待できる、PbS/CdS量子ドットの試料作製法の改良を行い、発光の量子効率を約5倍向上させた。本年度は、この量子ドットの発光スペクトル線幅の狭帯化に向け、量子ドットのサイズ分散が小さくなるように作製法を改良した。マイクロウェーブの利用により、サイズ分散を±29%から±17%に縮小できた。 二項目は本研究で提案するキャリア抽出法の実現に向けて設計した、共振器構造を備えた素子の作製法の改善・評価である。設計の見直しと作製法の改善により、共振器の性能の指標であるQ値が、研究開始前の目標値である500にほぼ近い480の素子を得た。また、その素子の基礎光学特性を、光学実験と理論計算の両面から明らかにした。 三項目は光子増倍法の有効性の検証である。この方法により素子を動作させるためには、上記の素子にて、量子ドットの発光寿命の高速化効果を得る必要がある。実験により、この素子で約10倍の高速化効果が得られるとの結果を得た。動作の効率化に向けさらなる高速化が必要であるが、原理的には有効な方法であることを示した。
|