前年度までの研究により、グラフェン上に酸化チタンナノシートを積層する技術が確立できたので、酸化チタンナノシートを絶縁膜としてスピン注入を試みたが、明瞭なスピンシグナルを観測するところまでは至らなかった。単層の酸化チタンナノシートでは接触抵抗が低すぎる可能性もあり、試料作製効率を上げて、詳細な調査が必要である。 酸化チタンナノシートは大気中における水の吸着が特徴的であるため、酸化チタンナノシート上にグラフェンを積層した構造を作製し、それらの層間における水の挙動を調べた。層間にトラップされた水の空間分布は原子間力顕微鏡で画像化可能であり、大気中では2~3層程度の水分子がトラップされていることが分かった。また、真空引きによりトラップされた水分子を除去後、低湿度下で水が再度トラップされていく様子も観察することができた。酸化チタンナノシート上グラフェンを用いた電界効果トランジスタ(FET)素子も作製し、同様に環境における変化を測定した。大気中ではトラップされた水分子の影響により、ゲート電圧特性に大きなヒステリシスが見られたが、真空中ではヒステリシスが消失した。 水酸化ニッケルナノシートを真空中で加熱することにより、強磁性を示す金属ニッケルに変換できることを発見した。加熱温度により構造が変化しており、構造に応じて磁化の変化が見られた。グラフェンと積層する実験も行っており、微細ホール素子による局所磁気測定やスピントロニクス応用に向けた予備実験を開始している。
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