研究課題/領域番号 |
16K04887
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
酒井 俊郎 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (30468706)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バブル / PEO-PPOブロック共重合体 / 超音波ホモジナイザー / 安定性 / 金ナノ粒子 / 界面活性剤 / フッ素系界面活性剤 / 吸着 |
研究実績の概要 |
水中でのバブルの製造方法、安定化方法の確立を目的として研究を行った。まず、ポリエチレンオキシド‐ポリプロピレンオキシド(PEO-PPO)ブロック共重合体水溶液中でのバブルの製造方法について検討したところ、超音波ホモジナイザーを使用することにより高濃度のバブルを製造できることが明らかとなった。水溶液中に形成したバブルは、サイズの大きなバブルは調製後10秒間程度で浮上し、溶液の上層に3時間ほど残留していた。サイズの小さなバブルは調製後3分間程度水溶液中に残留していたが、その間、徐々に溶液の上層へ浮上して、3時間後にはすべてのバブルがほぼ消滅した。PEO-PPOブロック共重合体水溶液中のバブルの寿命は数十秒から数分間程度であるが、その間に塩化金酸水溶液を添加すると、塩化金イオンが還元され金ナノ粒子が形成することが確認された。光学顕微鏡を用いて金ナノ粒子分散液を観察してみると、ミクロンサイズのドーナツ状粒子を確認することができた。すなわち、バブル周辺に金ナノ粒子が集積していることを示している。次に、水中に形成したバブルの安定化を目的として、バブルの安定性に及ぼす界面活性剤の影響について検討した。その結果、フッ素系界面活性剤がバブルの安定化に有効であることが明らかとなった。動的表面張力測定(平成28年導入)からフッ素系界面活性剤がバブル表面に素早く吸着し、安定化していることが確認された。しかし、フッ素系界面活性剤は塩化金イオンを還元することができないため、フッ素系界面活性剤とPEO-PPOブロック共重合体を混合することを検討した。その結果、フッ素系界面活性剤がバブル表面に先に吸着しバブルを安定化して、その後、PEO-PPOブロック共重合体が吸着することが明らかとなった。これにより、本申請案の目標であるバブル表面上での塩化金イオンの還元、金ナノ粒子の形成を実現できる可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波ホモジナイザーを使用することにより、水溶液中に高濃度のバブルが調製できることが明らかとなった。しかし、水溶液中に形成するバブルの安定性が低いため、その解決策に取り組んだ。界面活性剤としてフッ素系界面活性剤を使用すると、水溶液中のバブルの安定性が向上することが明らかとなった。つまり、水中でバブルを一定時間(反応時間中)維持するためにはフッ素系界面活性剤が有効であることが分かった。その一方で、フッ素系界面活性剤は金属イオンを還元する作用がないため、フッ素系界面活性剤だけでは目標としているバブル表面での塩化金イオンの還元や金ナノ粒子の形成は実現できない。そこで、フッ素系界面活性剤とポリエチレンオキシド‐ポリプロピレンオキシド(PEO-PPO)ブロック共重合体を混合することにより、水溶液中のバブルの安定化およびバブル表面での塩化金イオンの還元・金ナノ粒子の形成を試みた。その結果、フッ素系界面活性剤が先にバブル表面に吸着しバブルを安定化して、その後、PEO-PPOブロック共重合体がバブル表面へ吸着することを明らかとした。このようにバブル表面に界面活性剤層を積層することができれば、平成29年度の目標(水溶液中でバブルを安定化してバブル表面で金ナノ粒子を形成)を実現できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度においてPEO-PPOブロック共重合体水溶液中でバブルを調製し、塩化金酸水溶液を添加すると金ナノ粒子が形成することは確認されている。調製された金ナノ粒子分散液を光学顕微鏡を用いて観察すると、ミクロンサイズのドーナツ状粒子が確認される。このことから、バブル表面上に金ナノ粒子が集積していることが確認され、目標の実現性が示された。一方で、光学顕微鏡観察ではミクロンサイズのドーナツ状粒子のみ確認されている。今後、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてサブミクロン、ナノサイズの構造体の確認を行っていく。また、バブルサイズの制御方法の確立や分散安定化方法の改善を行っていく予定である。さらに、バブル表面に集積した金ナノ粒子の固定化技術を確立することを目指す。バブル表面に集積した金ナノ粒子を固体化するためには、集積した金ナノ粒子を接合する必要がある。そのために、バブル表面上へ集積する金ナノ粒子の高濃度化技術を確立する。バブル表面上への界面活性剤の吸着選択性を向上させることにより、バブル表面上へ集積する金ナノ粒子の高濃度化が実現できるものと考えている。そのために、バブル表面への界面活性剤の吸着と水溶液の温度、pH、溶媒の誘電率の影響について検討する予定である。
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