研究課題/領域番号 |
16K04893
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研究機関 | 諏訪東京理科大学 |
研究代表者 |
内海 重宜 諏訪東京理科大学, 工学部, 准教授 (00454257)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブロープ / 捻り / 機械的エネルギー貯蔵 / 重量エネルギー密度 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,カーボンナノチューブ(CNT)ロープを捻ることで,CNTに貯蔵できる重量エネルギー密度を向上させ,リチウムイオン電池(LIB;0.72 MJ/kg)を超えたシミュレーション値8 MJ/kgを目指すことである。 これまでの研究では,実験の精度と再現性に乏しいこと,貯蔵重量エネルギー密度が小さいことが課題であった。精度ついて本年度の研究では,サブマイクログラムまで測定できる精密な電子天秤を購入し試料重量が正確に測れるようになったことと,低トルクを測定できる微小アナログトルクゲージを用いたことで精度よく重量エネルギー密度を測定できるようになった。その結果,多層CNT(MWCNT)に貯蔵できる重量エネルギー密度を平均で1.0 ±0.24 MJ/kgと見積もることができた。この値はLIB以上である。再現性を得るためには,直径が均一なCNTロープ試料が必要となる。本年度の研究において,①as-received CNTを撚り出す方法,②CNTインクをスプレーした薄膜から作製する方法③バッキーペーパーから作製する方法を試みた。その結果,バッキーペーパーから作製する方法を用い,直径の均一な(100 um程度)単層CNT(SWCNT)ロープ試料の作製に成功し,再現性の良い結果を得ることができた。しかし,貯蔵重量エネルギー密度は0.1 MJ/kg程度と低いままであった。 作製したSWCNTロープ試料に,バインダーとして熱可塑性ウレタン(TPU)やグラフェンオキサイド(GO)を添加,または炭素蒸着を施したところ,TPU添加では0.53 MJ/kg,カーボン蒸着(CD)では0.61 MJ/kgと貯蔵重量エネルギー密度は改善された。 以上より,バッキーペーパーからさらに細いSWCNTロープ試料を作製し,カーボン蒸着やTPU添加することで,貯蔵量を劇的に向上できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,カーボンナノチューブ(CNT)を捻ることで貯蔵できる機械的エネルギー密度を向上させることである。これまでの研究では,実験の精度と再現性が低いということと,貯蔵エネルギー量が小さいという課題があった。実験精度については,精密な電子天秤と微小アナログトルクゲージの使用により解決することができた。再現性については,均一で細い単層CNT(SWCNT)ロープ試料をバッキーペーパーから作製する方法を確立し,再現性良く測定できるようになった。 貯蔵重量エネルギー密度を向上させるためには,CNT間の接着を強化し,強固なCNTロープ試料を作製することが不可欠である。これには,バインダーとして熱可塑性ポリウレタン(TPU)やグラフェンオキサイドの添加,または炭素蒸着により行った。これまでの結果として,TPU添加と炭素蒸着により重量エネルギー密度が十分改善されることが確認できている。また,これまでの研究からCNTロープ試料の直径が細ければ細いほど,実測できる重量エネルギー密度は上昇することが分かっている。CNTロープ試料の直径を細くするために,バッキーペーパーからセロハンテープで薄膜を剥がしCNTロープ試料を作製したところ,直径50 um以下の試料の作製に成功している。 今後,この細いCNTロープ試料を用い,加えるバインダーの添加量や熱処理温度などの条件を詳しく検討して最適条件を決定すれば,貯蔵重量エネルギーは飛躍的に向上すると考えている。したがって,平成28年度の研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究では,これまで課題となっていた実験精度については,装置系を改良することによって解決できた。再現性については,均一で細い単層カーボンナノチューブ(SWCNT)ロープ試料の作製方法を確立し改善できた。しかし,貯蔵できる重量エネルギー密度に関しては依然低いままである。平成29年度の研究で,引き続きバインダー添加によるCNT間の接着を強化し,機械的エネルギー貯蔵量の向上を目指す。 バインダーとして,熱可塑性ポリウレタン,エチレン酢酸ビニルコポリマー樹脂(グルー),グラフェンオキサイド(GO)を用いる。さらには炭素蒸着よる炭素添加も行う。バインダー添加は,SWCNTを溶媒(トルエン,アセトン,水)に分散させるときに所定量を一緒に加えSWCNT試料中に均一に分散させる。分散後のバッキーペーパーからセロハンテープで薄膜を作製後,直径の細いSWCNTロープ試料を作製する。バインダー添加量は赤外線吸収により確認する。 さらに,SWCNT間の接着強化のために,以下の物理的手法も試みる予定である。電気炉中でのSWCNTロープの加熱,マイクロ波照射による瞬時的な加熱,レーザー光照射である。これらはAr雰囲気中で行い,SWCNTの燃焼を防ぐ。処理時間や温度などを種々変化させ,最適な条件を見つけ出す。 重量エネルギー測定システムにより,捻った時の引っ張り力とトルクを測定し,CNTロープ試料に貯蔵できる重量エネルギー密度を見積もる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に必要な実験設備や消耗品を購入し,旅費を支払った結果,25,894円が残金となった。また,平成28年度の研究過程で,CNTロープ試料に溶媒(トルエン,アセトン,水)が多く吸着していることが分かった。CNTロープ試料の正味の重量を正確に測定するためには,これらを脱着する必要がある。脱着には真空乾燥器が必要であり,平成28年度の残金はこれの購入代金に補填したほうが有効と考え次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28度研究の過程で必要になった真空乾燥器の価格は18万円程度である。次年度使用額(25,894円)は,この真空乾燥器購入代として補填使用する予定である。
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