研究課題/領域番号 |
16K04895
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
藤田 雅弘 国立研究開発法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 専任研究員 (50342845)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 核酸分子 / ソフト界面 / ナノ粒子 / 分子クラウディング / 枯渇効果 / 小角X線散乱 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、分子混雑下におけるDNAナノ粒子のエントロピー的秩序化によるナノ構造体形成とその制御に関する研究を推進する。DNAの柔軟性に起因する立体斥力や静電反発と、ポリエチレングリコール(PEG)存在下で発現する枯渇引力の弱い相互作用を巧みに制御することで、種々の三次元ナノ構造体が構築できることを実証する。昨年度に引き続き、金ナノ粒子を核として持つDNA ナノ粒子を対象にして、PEG存在下での粒子の分散安定性を調べた。本年度は、混み合い分子(枯渇剤)であるPEGの分子量を変え、DNAナノ粒子の分散安定性に及ぼす影響について詳細に調べた。 分子量を変化させても、DNAナノ粒子の分散安定性に及ぼす枯渇効果の影響は同じ傾向を示した。すなわち、一本鎖(ss)DNA および末端に一塩基ミスマッチ(ms)を持つ二重鎖DNAを持つ粒子は極めて高い分散安定性を示すが、完全相補的二重鎖(ds)DNAで覆われている場合は、それらより低いPEG濃度で粒子が非架橋凝集することを確認した。ただし、DNAナノ粒子が凝集に至るPEG濃度は変化した。コロイド粒子間に作用する枯渇引力は、枯渇剤の分子量に依存することが理論上予期されるが、今回の結果はこれと矛盾しなかった。PEG添加によるDNAナノ粒子の凝集は、脱水による疎水効果で誘導されるものではなく、枯渇効果で生じていることを強く示唆するものである。凝集した粒子間の距離は、やはり枯渇引力の増大とともに短くなることを溶液小角X線散乱(SAXS)解析により明らかにした。非架橋型凝集は、DNA二重鎖の平滑末端間でのスタッキング相互作用による会合ではなく、DNA構造の変化に伴う柔軟性変化に起因したエントロピック反発の低下により誘発されるものであることが強く支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題での取り組みの一つに、混み合い分子(枯渇剤)すなわちポリエチレングリコール(PEG)の分子量と濃度を関数とすることで枯渇力を制御する試みを挙げている。本年度ではそれに従い、種々の構造のDNAを担持した金ナノ粒子(DNAナノ粒子)を対象にして、異なる分子量を持つPEG存在下でのコロイド分散安定性の評価、ならびに凝集構造体の溶液SAXS解析を実施した。従来より、枯渇剤による脱水の影響による粒子凝集の懸念があったが、枯渇効果の理論から予期されたようにDNAナノ粒子の非架橋凝集現象が枯渇効果により促進され、DNAナノ粒子に作用する付加引力はPEG分子量に依存することを実証した。今後、複雑なナノ構造体を作製するための重要な設計指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の進捗状況は概ね当初の予定通りであったため,引き続きこれまでの計画に沿って研究を推進する。本年度では、混み合い分子の分子量と濃度を関数とした枯渇力制御に関する基礎研究を主に実施した。イオン強度や温度などコントロールしつつ、今後は核となる金ナノ粒子の粒径を変えることで、サイズや材質の異なる粒子との共存による複雑な超格子構造形成の実現を目指したい。さらには、液体環境下におけるDNA密生層間に作用する微小な力を計測し、構造体との相関関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画は概ね順調に進行しており、消耗品費や旅費など当初想定していた額どおりの支出であるが、僅かながら残高が生じた。繰り越し分に関しては消耗品の購入に充てることにする。
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