本研究課題では分子混雑下におけるDNAナノ粒子のエントロピー的秩序化によるナノ構造体形成とその制御に関する研究を推進することを目的とする。DNAの鎖状分子としての立体斥力、静電反発ならびにポリエチレングリコール(PEG)存在下で発現する枯渇引力の弱い相互作用を巧みに制御し、種々の三次元ナノ構造体が構築できることを試みた。金ナノ粒子を核として持つDNA ナノ粒子を対象にし、PEG存在下での粒子の分散・凝集の特性評価ならびに溶液小角X線散乱による構造解析を実施した。 一本鎖DNA(ssDNA)で覆われた場合と、一塩基ミスマッチの二重鎖DNAで覆われた場合に高い分散安定性を示した。わずか一塩基のミスマッチによる自由度の高さに起因したエントロピックな反発力が、ssDNAによる立体斥力と同程度であることを明らかにした。完全に相補的な二重鎖DNAで覆われた場合が最も安定性が低く、僅かな枯渇引力の増大や静電反発の低下に伴い直ちに粒子凝集に至った。枯渇引力はPEG分子量に依存することが理論上予想されるが、得られた結果はこれと矛盾しなかった。粒子サイズ効果も調査した。粒子凝集に至るPEG濃度は、粒子サイズが大きいほど小さくてすむことが明らかにされた。これはファンデルワールス相互作用が大きな役割を担っているためである。粒子サイズが大きいと凝集物の構造規則性は低下しているようであった。 枯渇引力の増大は構造の圧縮と不規則性をもたらした。DNA鎖が互いに貫入しあって粒子が凝集し、枯渇引力の増大につれてその度合いが大きくなったためである。このことはDNAナノ粒子の凝集はDNA二重鎖の平滑末端間でのスタッキング相互作用によるものではないことを意味するものである。立体反発力、静電反発力と枯渇引力とのバランスを制御することで、極めて秩序性の高い結晶様の三次元ナノ構造体構造を生み出すことができた。
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