研究課題/領域番号 |
16K04899
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
佐藤 英樹 三重大学, 工学研究科, 准教授 (40324545)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 強磁性金属ナノワイヤ / 永久磁石 / カーボンナノチューブ繊維 / カーボンナノチューブシート |
研究実績の概要 |
当該年度は,(1)高効率Fe@CNT合成装置の製作,(2)Fe@CNT磁気特性向上条件の検討,(3)配向性が制御されたFe@CNTシート作製,の3項目について研究を実施した (1)高効率Fe@CNT合成装置の製作については,従来装置の問題点を抽出し,これらを改善した新規装置作製を行った。具体的には,原料となるフェロセン導入系の加熱機構を強化し,従来よりもフェロセン導入効率を向上させ,また安定に導入を行えるようにした。これにより,従来装置よりも高効率かつ安定なFe@CNT合成が可能となった。一方で,合成されるFe@CNTの磁気特性が従来装置によるものと比較して若干低下することが確認された。 (2)Fe@CNT磁気特性向上条件の検討については,触媒薄膜の大気中酸化処理および膜厚制御により,Fe@CNTの磁気特性が大きく変化することを確認した。このとき触媒種としてはNiが適していることが解り,FeとNiが合金化することで磁気特性が向上することを示唆する結果を得た。大気中で加熱するというシンプルなプロセスで強制酸化させたNi薄膜を触媒薄膜として用いることで,Fe@CNTの保磁力が大幅に向上することが確認された (3)配向性が制御されたFe@CNTシートの作製については,Fe@CNTを超音波分散によりエタノール中に分散させ,これを外部磁場を印加しながらSi基板上にスプレー堆積させることでシートを形成した。このFe@CNTシートについて磁気特性の評価を行ったところ,外部磁場の強さが増加するにつれて,Fe@CNTが外部磁場方向に配向することが確認された。さらに,スプレー堆積時の基板温度を制御することで,CNTの配向性に大きな差が出ることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Fe@CNTの磁気特性向上においては,Ni触媒が適していること,またこれを大気中で加熱酸化処理する,あるいは膜厚制御を精密に行うことで,Fe@CNTの保磁力が大幅に向上することが確認された。このようなシンプルなプロセスで磁気特性の向上が可能であることは,今後Fe@CNTの磁気特性向上を行う上で極めて重要な知見である。 一方,Fe@CNTシート作製においては,外部磁場印加しながらスプレー堆積法を組み合わせる方法がFe@CNTの配向性を向上させるために有効であること,スプレー堆積させるための基板温度が配向性制御に大きな影響を与えることが確認された。さらにこのシートを基板から剥離させ,自立した配向Fe@CNTシートの作製にも成功している。これらは,研究開始1年目に想定していた以上の成果と言える。今後解決すべき問題が多数残っている段階ではあるが,今後の研究指針は明確になっており,次年度以降の大きな進展を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,以下の点に注目して研究を進める。 (1)新規製作Fe@CNT合成装置のチューニング:新規製作CVD装置で合成したFe@CNTにおいて磁気特性が従来装置のレベルに引き上げるため,合成温度の最適化,原料導入量の最適化を行う。さらにターボ分子ポンプを排気系に用いて高真空対応装置として残留ガスを減少させた環境でFe@CNT合成を行う。 (2)触媒薄膜処理の最適化:Ni触媒薄膜の大気中酸化の精密制御,触媒膜厚のサブnmオーダーの制御により,FeとNiの合金化制御を行い,Fe@CNTのさらなる磁気特性向上を目指す。成膜方法としてスパッタ法,真空蒸着法など複数の方法の利用を検討する。 (3)Fe@CNTシートの作製:スプレー堆積法に用いるFe@CNTの溶媒への分散条件,堆積時の基板温度制御による配向性への影響をより詳細に調べる。さらに,より大面積に高速でFe@CNTの作製方法について検討を行う。さらに,研究者らが最近開発した,気体放電を使用したドライスピニング法を利用したFe@CNT繊維の作製を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の当初予算に対し,当初購入予定であった物品の内訳が変更になった関係で,1万円弱の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に行う,鉄内包CNT合成実験の装置改造用部品の購入費の一部として使用する予定である。
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