研究課題/領域番号 |
16K04901
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
堀江 雄二 鹿児島大学, 理工学域工学系, 准教授 (50201760)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電界紡糸法 / ナノファイバ / 不織布 / 色素増感太陽電池 / 光蓄電池 / 変換効率 / 電荷移動特性 / フレキシブルデバイス |
研究実績の概要 |
これまで,電界紡糸法を用いて酸化チタン(TiO2)およびそれにニオブをドープした透明導電体であるTNOの直径数十nmのナノファイバ(NF)からなる不織布を色素増感太陽電池(DSSC)のTiO2多孔体層に挿入することによって,電荷移動特性と発電効率が改善されることを示した.28年度はTNOおよびスズドープ酸化インジウム(ITO)のNFを同軸型スピナレット(ノズル)を用いてその表面を被覆した同軸ナノファイバ(CSNF)の作製条件を探索し,得られたCSNFを用いて作製したDSSC光電極の発電特性から,その効果を調べた. (1) TiO2緻密層/ITO-CSNF:パルス光応答測定から同軸型にすることで電解液の分極の影響を受けにくくなり,電子の拡散速度が飛躍的に向上することが分かった.しかし,同軸型にしたことによってNFが太くなり,不織布中へのTiO2ナノ粒子の浸透量が減少し色素担持量が減るため,DSSCの導電路として用いるには改良が必要であることがわかった. (2) TiO2緻密層/TNO-CSNF:同軸型になったことにより光励起電子の取り込み量が増え,量子効率の向上が見られた.しかし,TiO2被覆層の結晶化が進みすぎて表面からの漏れ電流が大きくなるという問題点が明らかになった. (3) WO3ナノ粒子/ITO-CSNFの光蓄電池への応用:WO3ナノ粒子を光電変換材兼蓄電材に用いた同軸型光蓄電池の作製を行った.WO3ナノ粒子のサイズが小さくなったことでカチオンの挿入・脱離が促進され,光蓄電効率の増大が見られた.光蓄電過程はこのカチオンの挿入・脱離によって律速されていることから,WO3ナノ粒子の担持量の増大によってさらなる効率の向上が見込めることが明らかになった. 以上のように,ナノファイバを同軸型にした場合の得失が明らかになり,今後の改良の方向性を定めることが出来た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初には以下の3点を目標に掲げた.(1)電界紡糸法によるITOナノファイバをコアにした各種コア・シースナノファイバ(CSNF)の作製,(2) TiO2/ITO-CSNF不織布シートを用いた DSSCの評価,(3)WO3層/ITO-CSNF不織布シートを用いた同軸型二次電池電極の評価.それぞれについて現在までの進捗状況を示す. (1)原料液の組成や紡糸条件を変化させることにより,ITOコアナノファイバの周りをTiO2ナノ粒子層やTiO2緻密層,WO3層で被覆した同軸コア・シースナノファイバ不織布を作製することができた.しかし,不織布を厚くすると焼成時に断裂を生じたり,被覆層を厚くすることが困難であったり,改良すべき点があることが分かった. (2) CSNF不織布シートを用いたDSSCにおいて,電荷移動速度や量子効率の向上などコア・シース同軸構造の効果が認められ,一定の成果を上げることが出来た.しかし,不織布シート内にナノ粒子を均一に拡散させることが難しい,シース層の結晶性が良すぎて逆に漏れ電流が増加するなど,当初想定しなかった困難があることも分かった. (3) WO3層で被覆したCSNFにおいて光充放電特性を調べたところ,平坦膜に比べて格段にWO3の体積が小さいにもかかわらず優れた充放電特性が得られ,WO3蓄電層がナノメートルオーダーになったことでカチオンの挿入速度が速くなり,当初の予想通りこの挿入速度が光蓄電反応全体を支配していることを明らかにすることができ,一定の成果を得た.しかし,WO3層によってナノファイバの一部しか被覆できていないため改良の余地があり,逆にこの点が改良できれば,充放電レートを格段に向上できることが分かり,今後の研究の方向性を定めることが出来た. 以上の状況から,一部想定しなかった困難があるものの,概ね順調に進展しているものと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで,ITOナノファイバをコアにした各種コア・シースナノファイバ(CSNF)不織布を作製し,太陽電池や光蓄電池へ応用することで同軸ナノファイバの得失を調べてきた.28年度の成果を受けて今後は以下のように研究を推進していく予定である. (1) TiO2多孔膜層/WO3層/ITO-CSNF不織布シートを用いた同軸型光蓄電池電極の作製と評価:これまで研究を行ってきたWO3/ITO-CSNF不織布シートを用いた光蓄電池電極において,同軸ナノファイバの光蓄電性への効果を総括する.その上で,WO3層の厚みを変えたり色素を担持させたTiO2多孔膜層等で増感させたりすることで,充放電レートと光電変換レートを相対的に変化させ,最適な光蓄電の条件を探索する. (2) フッ素ドープ酸化スズ(FTO)のナノファイバの作製:導電コアナノファイバの材料として,これまでITOを用いてきたが,ITOは高温で不安定であり複合材料として活用する際は問題になることが多い.従って,代替材料としてFTOのナノファイバおよび,それをコアにした同軸ナノファイバの作製を試みる.また,ITOをコアにした場合との導電路としての特性の比較を行う. (3) ナノファイバ不織布の機械強度向上のための検討:将来的にこのような酸化物ナノファイバ不織布を応用する際は,酸化物の結晶化が進むほど剪断応力に対するナノファイバの強度が下がるため不織布の断裂につながりやすい.従って,アモルファスナノファイバなどとの複合構造にすることにより,その問題の解決を試みる. (4) CSNF不織布シートを用いた新奇なデバイスの提案と試作:まずはその手始めとして,広い表面積と不織布というナノ粒子とは異なった扱いやすい形状を活かし,吸着剤としての効果をアルミナ同軸ナノファイバを用いて検証する.その後,電子デバイスへの応用を模索する.
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