研究課題/領域番号 |
16K04909
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
政池 知子 東京理科大学, 理工学部応用生物科学科, 講師 (60406882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 微小管 / 動的不安定性 / マイクロチャンバー |
研究実績の概要 |
本研究のテーマは、微小管の伸長と短縮の切り替えはGTPの加水分解が直接の原因ではなく、それによって引き起こされた構造の歪みによるものであるとする構造可塑性モデルの正否を明らかにすることである。そのために、極小PDMS樹脂製チャンバーアレイ内での微小管重合の実験を進めてきた。H30年度には同体積で異形状(円柱と三角柱)の空間を有するチャンバーアレイ内に微小管モノマーを封入して伸長と短縮を観察し、その違いを定量的に解析した。 その結果、微小管はチャンバーの壁面に一旦接触すると、壁面を避けるように位置をずらしながら重合速度を低下させて伸長を続けることがわかった。そして壁面を回避できない長さ(辺や局面に沿う位置)に到達すると、次は湾曲しながら重合を続けた。このフェーズでは、微小管の曲率が増加するのに伴い、重合速度がさらに低下することがわかった。また、湾曲による歪みが溜まった後にそれが解消されるまで脱重合が起こる例も観察された。重合速度と構造の歪に関係性が見られることから、これまでのところ構造可塑性モデルと矛盾しないと考えられる。 ところでこれらの実験において、数~十マイクロメートル程度の直径で円を描けるほど、通常ではありえない柔らかく湾曲した微小管構造が現れたのは驚くべきことであった。なぜなら、13本のプロトフィラメントが中空の管を形成する完全な形の微小管の場合、1 mm程度の長さにわたりほぼ直線形状を示すはずだからである。現在の解釈では、微小管重合時に、周辺環境に合わせてヘテロダイマーの欠損が発生し、エネルギー的に安定な構造をとっているものと考えられる。ただし、湾曲や壁への接触により重合速度が低下していることを鑑みると、一部欠損を形成した微小管が比較的安定であるとしても、重合に至るまでに大きな活性化エネルギーは必要とされる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極小体積のマイクロチャンバーアレイ内にチューブリンヘテロダイマーを封入し、極小かつ障壁のある空間での微小管の重合を調べ、さらに蛍光性GTPを用いて微小管上のヌクレオチド分布の検証を行うことを目標としている。これまでの研究において、円柱だけでなく、三角柱、細長い直方体のチャンバーアレイ内での微小管の重合も観察が可能となり、PDMS樹脂の透過性の検証、顕微鏡ステージ上の温度の安定化、GTP再生系添加など、懸案を一つずつ検討し、解消して実験を行ってきた。 まず、チャンバー内での微小管重合の特徴については、壁面に到達する前、壁面の障壁があるとき、湾曲するときについて場合分けをして、それぞれの場合における重合速度の比較を行うことができたことははっきりとした進捗である。次に、微小管の曲率と重合速度の関係を定量化した。曲率の増加は重合速度の低下をもたらす。このように、障壁や湾曲による重合速度の低下を定量化できたことは大きな進展である。これまでの研究については構造可塑性モデルに矛盾のない結果が得られているため、研究課題で設定した問いにある程度答える研究を進める事ができている。さらに、フェムトリットル体積のチャンバー内での微小管の伸長はマイクロリットル体積のフローセル内と比較して、重合速度が大きいことが示唆された。これは分子が夾雑することの効果であることが予想される。 しかし、構造可塑性モデルの正否に決着をつけるためには、微小管に結合した蛍光性GTPの可視化を進める必要があり、その点においては実験系のさらなる発展が必要である。また、微小管の湾曲の原因と考えている欠損の可視化も課題となる。 以上の進捗により、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、極小体積空間に特有の障壁により、微小管の重合様式が変化する可能性が示唆された。具体的にどのような重合様式になっているのかを調べるためには、チャンバー内で重合した微小管の構造を可視化し、障壁のない空間で重合した微小管と比較する必要がある。蛍光標識したチューブリンを微小管に疎らに組み込み、蛍光分子の角度検出を行って局所的な微小管の配向を調べるのは1つの方法である。また、微小管に疎らに結合した蛍光修飾GTPの向きを検出するという方法もある。後者の方法の利点は、間接的ではあるが微小管の重合形態とヌクレオチド分布の双方を同時に可視化することができる点である。この方法が可能になれば、構造可塑性モデルの検証のための強力なアッセイ法になるはずである。 蛍光性GTPが加水分解後に解離して画像から蛍光が消失することを指標として、GTP加水分解産物が解離する領域とそのタイミングを可視化する事が出来ると考えている。蛍光分子の解離による蛍光の消失が脱重合と共役している場合には加水分解が脱重合を促進するモデルが確からしいと考えられる。一方、蛍光分子の解離は見られずむしろ蛍光分子の角度変化がきっかけとなり脱重合が開始されるのであれば、構造可塑性モデルが正しいと解釈することができる。 このように蛍光性GTPを活用する方法を確立する以外に、解離した基質をチャンバー内溶液中の局所で検出する技術についても検討する必要がある。これには、例えばチャンバー内の局所でGTP加水分解産物のリン酸やGDPの濃度が増加するのを検出することが鍵となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度はほぼ計画に沿って予算の執行を行ったが、出張の予定が1件変更になり次年度に出張する可能性が高くなったため、若干の額を繰り越す必要が生じた。
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