微小管の伸長・短縮の切り替わりは構造の歪みに起因するという構造可塑性モデルの検証を本研究の目標とした。そのために、伸長した微小管に物理的な障壁をもたらし、解離した基質の局所イメージングにも適していると考えられるマイクロチャンバーアレイの極小空間における微小管観察の実験系構築を目指した。 数十fL容積の円筒や三角柱のPDMS樹脂製チャンバーに封入した微小管の観察を行ったところ、マイクロリットル体積における従来のフローセル内のガラス基板上と比較して重合速度が増加することが見いだされた。このことから、重合速度に対する分子夾雑効果の寄与がある可能性が考えられる。 さらに、伸長した微小管はPDMSの表面に接触すると壁に沿って湾曲し、重合速度を徐々に低下させるという興味深い現象が明らかになった。微小管の曲率と重合速度にはおおむね負の相関が認められたことから、構造の歪みが重合速度に影響することが示唆され、構造可塑性モデルに矛盾の無い結果が得られたと言える。ただし、完全な13本のプロトフィラメントをもつ通常の微小管構造の持続長からすると実現不可能な曲率をとっていたことから、おそらくチューブリンの格子欠陥を作りながら重合し、柔軟性を獲得したと考えられる。 新規の蛍光性GTPによる微小管の重合も確認されたが、この蛍光性GTPが微小管上で加水分解されるという積極的な生化学的実験の結果は得られなかった。このことから、この蛍光性GTPは非加水分解性であり微小管の歪みも誘導しないため脱重合を引き起こさないという仮説を提唱する。 以上、本研究ではPDMSマイクロチャンバーアレイ内での微小管重合の実験系を確立し、構造可塑性モデルの検証に資する多角的な研究成果を得た。
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