研究課題/領域番号 |
16K04913
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
茂木 巖 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50210084)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロ渦流 / キラリティ / 磁気電気化学 / 磁気流体力学 / アミノ酸 |
研究実績の概要 |
キラル界面形成の研究は,製薬プロセスにおける不斉触媒開発の基盤となるだけでなく,生命誕生に向かう分子進化において生体分子のホモキラリティの起源に関わる極めて重要なテーマである.本研究では,磁場中での電析(磁気電析)がキラル界面を生成することに着目し,ローレンツ力により励起されるマイクロ渦流の自己組織化状態とキラル界面形成との関係を研究する.さらに,多様な磁気電析条件を創出することにより,キラル対称性が破れる可能性を探索し,生体分子のホモキラリティの起源を,独自の視点で探求する. 本年度は,マイクロ渦流にマクロな電磁対流(MHD対流)が強く作用する微小電極を用いて,硫酸銅水溶液中で銅の磁気電析,磁気電解エッチングを行い,界面キラリティの測定を行った.磁気電気化学キラリティは,印可磁場の方向を反転するとキラリティも反転することが,これまでの研究で明らかになっている.ところが,100, 25マイクロmの微小電極においては,磁場を反転してもキラリティが変化しないという特異な結果が得られた. さらに,磁気電気化学キラリティにおよぼす特異吸着の効果の研究も行った.塩化物イオンは代表的な吸着剤であり,塩化物イオンが銅の成長界面の特異サイトに吸着して,マイクロ渦流の自己組織化構造が変化し,キラル界面形成に影響をおよぼすものと期待した.結果は,ここでも磁場反転に対しキラリティは変わらないというものであった.これら微小電極と特異吸着の効果はキラル対称性の破れを意味し,極めて重要な発見であり,生体のホモキラリティ発現とも関連して興味深い結果である.そのメカニズムの解明が重要な研究目標に浮上した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究計画とその達成度は以下のとおりである. 計画1. 磁気電析過程では,電極界面のマイクロMHD渦流と外側の垂直MHD対流が自己組織化状態を作り,マイクロMHD渦流の対称性が破れ,キラルな界面が生成する.電極径がミリメートル以下に小さくなると,垂直MHD対流が強くマイクロMHD渦流に作用するため,渦流の自己組織化状態が変化し,キラル界面形成が影響を受けるものと期待される.そこで,100, 25, 10マイクロmの微小電極を用いて,銅の磁気電析実験を行いキラリティの発現を確かめてみた.この実験では,ナノアンペア以下での電流測定が必要になるため,それに対応したポテンショ・ガルバノスタット(Metrohm Autolab社, model:PGSTAT204)を設備備品として購入して測定を行った.100, 25マイクロmの微小電極においては,磁場を反転してもキラリティが変化しないという特異な結果が得られた.さらに微小な10マイクロmの電極では,マイクロMHD渦流と垂直MHD対流が一体化するため,キラリティは消失した.このように微小電極の効果を明瞭に確かめることができた. 計画2. 銅の電析において塩化物イオンCl-は代表的な添加剤で, Cl-が銅の成長界面に吸着して表面の凹凸をなくす.Cl-を添加して銅の磁気電析を行うと,マイクロ渦流の対称的な自己組織化構造が乱され,キラル界面形成の増幅効果が期待された.そこで,キラリティのCl-濃度依存性を調べてみた.Cl-濃度が0.2 モル/Lで,磁場方向に依存しないキラル界面形成が観察され,特異吸着効果によるキラル対称性の破れが明らかになった. キラル対称性が破れる条件を探索することは,本研究の到達目標の一つであったので,初年度でそれが見つかったことにより,そのメカニズムの解明というさらなる高い目標に向かうことができる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,マイクロMHD渦流はキラル界面形成に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.ところが,これまでマイクロMHD渦流を直接観察す実験は行われていない.強磁場中での顕微鏡観察と,電解液中での凝集沈殿せずに良好に分散するトレーサーの選択が難しいためである.最近,魚の鱗から採取したグアニン微結晶が良好なトレーサーとして機能することが分かってきたので,これを利用して,磁気電析過程でのマイクロMHD渦流の可視化を試みる.これにより,垂直MHD対流の影響や渦流の自己組織化構造,対称性の破れなどが明らかになることを期待する. さらに,別のキラル界面作製法として,回転磁気電析法の開発を進める.一定の力学的回転をしている系の中に存在する渦流では,右回りと左回りでコリオリ力に差ができるため,次第に異なる歳差運動を行うようになる.同様の事象を磁気電析に適用すれば,マイクロ渦流の対称性を破ることができる.すなわち,磁場中で電解セルを回転させる回転磁気電析法である.これは我々が開発した独自の手法で,数年前から研究を開始し,装置を試作して実験を試みてきた.本研究でさらなる回転装置の改良を重ね,周波数を変えて磁気電析を行えるようにする.これにより,力学的回転とマイクロMHD渦流の歳差運動との共鳴条件が分かり,より選択制の高いキラル界面を形成する方法が見つかるものと期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である.具体的には,高額な微小白金電極を慎重に繰り返し使用し,磁気電析条件の的確な探索により購入数を節約できたことによる.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,平成29年度請求額とあわせ,平成29年度の研究遂行に使用する予定である.具体的には,強磁場中で使用できるデジタル顕微鏡の購入や,対流観察用電解セルの加工費などに充てる.
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