近年、物質と光との強い相互作用の実現のため、高Q値微小共振器の開発が盛んに行われている。ダイヤモンドは、物理的・化学的に安定、紫外域から赤外域まで透明、さらに、非線形性が高いという、光学的に優れた特徴を持つ。そこで、本研究では、高精細集束イオンビーム装置を用い、ダイヤモンドを加工し、高Q値微小共振器の作製を目指す。これにより、超低消費電力レーザー、高効率波長変換素子といった従来の性能を凌駕する光デバイスに加え、量子情報通信用光源である、単一光子源や量子もつれ光源などの実現が期待できる。 平成28年度は、ダイヤモンド外部グレーティングとナノ光ファイバを結合させた構造について、時間領域差分(FDTD)法を用いて計算を行った。その計算によると、ダイヤモンドとナノ光ファイバでは実効屈折率差が大きくなるため、ナノ光ファイバの透過率が著しく減少することがわかった。 平成29年度は、時間領域差分(FDTD)方を用いて、マイクロリング共振器に光を入出力するためのグレーティングカプラの計算を行った。その結果、3.5の屈折率を仮定した場合、約50%の効率、1.98の屈折率を仮定した場合、約25%の効率が得られることがわかった。これらの結果から、ダイヤモンドの場合、25%から50%の間の効率が得られると推測できる。また、高精細集束イオンビーム装置を用い、直径320ナノメートルのナノ光ファイバ上に光共振器を作製、4170のQ値を実現した。このQ値は、測定装置の分解能によって制限された値であり、実際のQ値はさらに高いと推測される。 平成30年度は、高純度ダイヤモンド基板上に高精細集束イオンビーム装置を用いてナノ微細加工を行った。しかし、シリコン等で報告されているように、ダイヤモンド結晶に注入されたヘリウムイオンによりバブリングが発生するため、設計通りの構造を作製することはできなかった。
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