研究課題/領域番号 |
16K04927
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西林 一彦 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任講師 (20361181)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 光導波路 / 磁気光学効果 / 磁性体 |
研究実績の概要 |
垂直磁化を有する[Co/Pd]多層膜を積層させたAlGaAs系導波路の作製手法を確立し、磁気光学的な偏光面回転を確認した。GaAs/AlAs/GaAs-Sub.をリッジ型導波路に加工した後、[Co/Pd]多層膜をスパッタ法により成膜してリソ加工を行った(40μm長)。磁気光学効果の測定では、GaAs基板の吸収損失を抑えるため、波長915nmのレーザーを導入した。導波路の入力損失を改善するため、レンズドファイバと精密ポジショナの導入および試料の保持台の安定化を行った。この結果、導波路の0次モードの光出力において、[Co/Pd]層の磁化反転に伴う2.8度に相当する偏光面の回転を確認した。これは導波路内の0次モードに磁性体の磁化状態を反映した磁気光学効果が起きたためであり、導波路に偏波変調信号を生成しうることを示している。また得られた結果は、[Co/Pd]膜の磁気光学極カー回転(0.1度)に対して30倍の値で、これは0次モードが磁性体直下で磁気光学効果を受け続けたためと考えられる。 Co/Pd多層膜の全光磁化歳差運動の振幅を増大させるため、Co層の周囲の構造パラメータと磁化ダイナミクスの関係を調べた。磁化歳差運動の振幅は、GaAs(001)よりSi(110)基板の方が、また、DCよりRFスパッタ法のほうが大きくなると分かった。[Co/Pd]多層膜は界面磁性をもつことから、この結果は多層膜の界面近傍の結晶構造が基板および成膜法の影響を受けることを示唆している。多層膜のPd層厚を減少させると振幅に加えて周波数が増加する。自由エネルギーモデルを考慮すると、この結果はPd層厚の減少に従い磁化歳差運動の光励起効率が増加したと解釈できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
偏波変調信号を伝送するための導波路作製と磁気光学効果の検出は、0次の伝播モードにおいて成功した。AlGaAs系リッジ型導波路の作製においては光学的評価の可能な導波路の歩留まりの低さ(数%)だったが、導波路の加工工程を見直すことで10%以上に向上した。加えてリッジ型導波路上への[Co/Pd]多層膜の成膜とその加工の工程を確立した。作製した導波路においては光損失が大きいことが課題だったが、これは導波路の固定台への振動対策、レンズドファイバの導入およびそのサブミクロン位置制御、さらに光波長の長波長化によるGaAs層内の吸収損失の軽減で改善された。この結果、光損失は他の研究グループで報告されているInGaAsP系導波路の光損失の値と比べても妥当な値(~50dB)となり、フォトダイオードでの光強度および磁気光学効果の検出が可能になった。 [Co/Pd]層の磁化反転に伴う0次モードの磁気光学的な偏光面回転の量が、自由空間での極カー回転に対して30倍となったのは想定以上だった。今後はこの結果に対する定量的な評価が必要である。今年度は磁化反転における磁気光学効果の検出に注力したため、伝播モードにおける光励起歳差運動の検出はやや遅れている。そのためには現在の磁気光学信号のSN比を3桁以上改善する必要がある。 磁気光学導波路用の磁気光学材料の開発は、昨年に引き続き [Co/Pd]多層膜の光励起磁化歳差運動の構造パラメータ依存性を調べた。多層膜の界面近傍の結晶構造が基板や成膜法に依存し、それが歳差運動の励起効率に影響していることが示唆され、構造の最適化のための条件が固まりつつあり順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで磁性体塗布型光導波路の作製および磁気光学効果の実験的評価で得られた0次モードの伝播光における結果に対して、ビーム伝播解析シミュレータ(本年度に購入)を用いた定量的な評価を行う。また、ビーム伝播法によりY分岐導波路を用いた偏波変調信号の多重伝送の原理実証を行う。そしてこれらの成果の外部発表を行っていく。解析的評価に重点を置く理由は、実験結果の説明のために導波路における磁気光学効果の定量的な評価が重要となり、その環境を整備したためである。加えて、磁気光学測定系の構築・評価を主体的に行う研究代表者の所属が本年度末に変更したことで実験的手法の展開が難しくなったためである。 これまでの結果の定量的評価は、複素誘電率テンソルの非対角項を取り入れた導波路の電場解析により進める。シミュレータの原理上、光学定数の選択に制約があるため、現実の導波路の値に近いパラメータを用いて、コア層から磁性金属層に染み出る光の量と磁気光学効果とそのエネルギー効率の評価を行い、導波路内の伝播モードにおける偏光面の空間発展と回転の積算効率を調べて実験結果と比較する。またモード分割型のY分岐導波路を用いた偏波変調信号の多重伝送の評価は、まず0次と1次の伝播モードが分割する条件を求め、次に導波路上に磁性体クラッド層を設置して、その磁化を空間選択的に反転させたときに各モードに発生する磁気光学効果の分割効率を求めることで行う。構造パラメータの最適化により偏波変調信号の分割効率の向上を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
磁気光学測定系の構築において導入を予定した項目の見直しと選定を厳密に行う事で研究に必要な性能を維持しつつコスト削減を行った。これにより生じた次年度使用額は主にビーム伝播シミュレータの保守費用(20万円)や外部発表費に用いる計画である。
|