研究課題/領域番号 |
16K04930
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
古門 聡士 静岡大学, 工学部, 教授 (50377719)
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研究分担者 |
角田 匡清 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80250702)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 伝導電子-局在スピン間相互作用 / スピン-原子振動相互作用 / スピン緩和 / スピン軌道相互作用 / 結晶場 / 異方性磁気抵抗効果 / 摂動理論 |
研究実績の概要 |
本研究は局在スピンを介した伝導電子-分子運動間相互作用Vに関する理論的研究である.このVはd軌道の状態に強く依存し,その状態は交換分裂エネルギーEex(∝磁化),結晶場エネルギーΔ及びスピン軌道相互作用Vsoに依る.今回我々は,d軌道の状態を調べるための実験的手法である異方性磁気抵抗(AMR)効果について理論的研究を行った.特に今回は[001]方向に正方歪みを持つハーフメタリック強磁性体に注目し,そのAMR比の磁化方向依存性を調べた.ここで,AMR比はAMR(φ)=[r(φ)-r(π/2)]/r(π/2)であり,φは磁化と電流の間の相対角,r(φ)は角φでの抵抗率である.さらに磁化は(001)面内にあるとし,電流IはI//[100],[110]とした.主な結果は以下の通りである. 1. d軌道 まず無摂動系が縮退している場合の摂動論の波動関数(一般式)を導出した.次にその一般式を用いて,Eex,Δ及びVsoを持つd軌道の波動関数を求めた. 2. ハーフメタリック強磁性体のAMR比 上記d軌道とボルツマン理論を用いて抵抗率をもとめ,その抵抗率からAMR比を導出した.電流方向をi(=[100], [110])とするとき,AMR比はAMR^i(φ)=C0^i+C2^icos2φ+C4^icos4φ(ただし,C0^i=C2^i-C4^i)となった.ここで,C2^iとC4^iは,Vsoの係数,Δ及び軌道ごとのフェルミ準位上の部分状態密度(PDOS)等で表された.さらにC2^iはdε軌道とdγ軌道間のPDOSの差,C4^iはdε軌道間のPDOSの差に比例した.また,dε軌道内の1軌道とdγ軌道の2軌道のPDOSが全て等しいとき,C4^[100]=-C4^[110]になることが確認された.この関係はFe4Nなどの強磁性体に対して実験で観測されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度行なった摂動計算に一部間違いが見つかり,計算を最初からやり直したため.詳細は次の通りである. 昨年度,ボルツマン理論を用いて電気抵抗率を導出した.その抵抗率の中には,d軌道の波動関数が含まれていた.その波動関数はスピン軌道相互作用等を摂動項とする摂動計算により求められた.しかし再計算した際,一部の高次項が取りこぼされていたことが分かった.そこで今回,摂動計算を最初からやり直し,正しいd軌道の波動関数を得た.さらにそのd軌道を用いて電気抵抗率をもとめた.本計算結果はJ. Phys. Soc. Jpn.のErratum,Phys. Status Solidi CのCorrectionに報告された.
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今後の研究の推進方策 |
1. スピン軌道相互作用と結晶場を考慮に入れた模型を用いて局在スピンを介した伝導電子-分子運動間相互作用を求める. 2. スピン軌道相互作用と結晶場を考慮に入れた3d軌道の波動関数を解析的に求める. 3. 電流I//[100],[110],[001]で,磁化Mが(001)面内にある場合の強磁性体の異方性磁気抵抗効果の理論を構築する. 4. 3の理論を用いて,強磁性体Niの異方性磁気抵抗効果の実験結果を理論的に解析する. 5. 電流Iと磁化Mが任意の方向の場合の異方性磁気抵抗効果の理論を構築する. 6. 5の理論を用いて,ハーフメタリック強磁性体を含むさまざまな強磁性体の異方性磁気抵抗比を数値計算によりもとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は,まず単純モデルに対して手計算(摂動計算)による理論構築を行い,次にコンピュータによる数値計算を行った.数値計算は比較的小規模なものだったので既存のマシンを用いた.このため残額が生じた.平成30年度はこの残額を大規模数値計算用コンピューターの購入のための経費として計上する.
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