研究実績の概要 |
本研究は局在スピンを介した伝導電子-分子運動間相互作用Vに関する理論的研究である.このVの構築には,Vに大きな影響を与え得る伝導(s)電子からd軌道への遷移確率(s-d散乱)を詳細に調べる必要がある.s-d散乱を調べる手法として,異方性磁気抵抗(AMR)効果があり,昨年我々はStrong Ferromagnet(FM)[1]のAMR効果の理論を構築した.今回我々はWeak FM[1]のAMR効果について研究を行った.特に[001]方向に正方歪みを持つWeak FMに注目し,そのAMR比の磁化方向依存性を調べた.ここで,AMR比はAMR(φ)=[r(φ)-r(π/2)]/r(π/2)であり,φは磁化と電流の間の相対角,r(φ)は角φでの抵抗率である.さらに磁化は(001)面内にあり,電流IはI//[100]とした.主な結果は次の通りである. 1. Weak FMのAMR比 ボルツマン理論を用いてr(φ)及びAMR比を導出した.AMR比はAMR(φ)=Σ_{j=2,4} C_jcosjφとなった.ここで,C_jは,スピン軌道結合定数,結晶場エネルギー及び軌道ごとのフェルミ準位上の部分状態密度(PDOS)等で表された.特に,C_2はdε軌道とdγ軌道間のPDOSの差に比例し,C_4はdε軌道間のPDOSの差に比例した.Strong FMと同様,Weak FMでも,正方歪みの系でC4≠0になることが分かった. 2. Weak FMの代表的物質Feへの適用 1で導出したAMR比の式を用いて,bcc-FeのT=5Kでの負のAMR比の実験結果を解析した.過去の理論研究で評価されたbcc-FeのPDOS及び伝導電子の抵抗率の値をAMR比の式に代入することで実験結果と同じ負のAMR比を得た.一方,多結晶FeのT=5Kでの正のAMR比の実験結果は我々の結晶場無しモデルのAMR比の式によって説明された.
|