研究課題/領域番号 |
16K04933
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
重田 出 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (30370050)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ハーフメタル / ホイスラー合金 / 超伝導 / ジョセフソン効果 |
研究実績の概要 |
超伝導デジタル回路は,ジョセフソン素子の高速性・低消費電力性と共に,超伝導体本来の特性でもある無損失性という特徴をもつ。近年,超伝導デジタル回路の消費電力の低減化は急速に進んでいる。一方で,低消費電力・低温動作可能な超伝導メモリは,磁束量子の保持による記録に代わり,素子内に組み込まれた磁性体の磁化の向きで記憶素子を構成する方式が提案され,その集積化の可能性から研究が活性化している。そこで本研究の目的は,ハーフメタルホイスラー合金と超伝導体を用いたエピタキシャル多層膜の成膜技術とナノサイズ素子の加工技術を利用し,超伝導デジタル技術に必要な超伝導磁気メモリ(超伝導MRAM)のためのハーフメタルジョセフソン素子の作製と特性評価に取り組むことである。 初年度の昨年は,超伝導体NbNとハーフメタルホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siの二層膜の作製条件の最適化に成功し,高い超伝導転移温度と,Co2(Fe,Mn)Siのバルクの値とほぼ等しい自発磁化をもつことを明らかにした。そこで,2年目に当たる今年度は,NbNとCo2(Fe,Mn)Siをエピタキシャル成長させた二層膜を成膜し,強磁場中輸送特性の測定を行った。超伝導ゆらぎ理論の解析を進めることによって,ジョセフソン素子特性を最適化する際に重要となるコヒーレンス長や上部臨界磁場,拡散定数,非弾性散乱時間などの導出にも取り組んだ。また,成膜したCo2(Fe,Mn)Siのスピン分極率を直接決定し,Co2(Fe,Mn)Siが高いスピン分極率をもつことを明らかにすることは,Co2(Fe,Mn)Siのハーフメタル性を保証するために重要である。そこで,NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造のエピタキシャル接合アンドレーエフ反射(ECAR)素子の作製と,その素子を利用したアンドレーエフ分光法の測定を行うことによって,ホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siのスピン分極率の決定にも取り組んだ。加えて,NbN/Co2(Fe,Mn)Si/NbN構造のハーフメタルジョセフソン素子の作製に取り掛かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハーフメタルであるCo2(Fe,Mn)SiがNbNの超伝導性に与える影響を調べるために,エピタキシャル成長させたNbN/Co2(Fe,Mn)Si構造の二層膜の超伝導特性を調べた。二層膜の電気抵抗と磁化の測定を行ったところ,16Kの高い超伝導転移温度と23Tの高い上部臨界磁場をもつことがわかった。さらに,Co2(Fe,Mn)Siバルクの値とほぼ等しい自発磁化を有していることも明らかになり,超伝導体NbNとホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siの良質な二層膜の成膜に成功した。そこで,最大17Tの強磁場中輸送特性の測定に取り組み,超伝導ゆらぎ理論の解析から,コヒーレンス長や拡散定数,非弾性散乱時間などを見積もった。さらに,二層膜の磁束運動の活性化エネルギーの評価も行った。これらはCo2(Fe,Mn)SiとNbNを用いたジョセフソン素子の特性を最適化する上で重要な情報である。 次いで,NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造の二層膜を用いて,エピタキシャル接合アンドレーエフ反射(ECAR)素子を作製した。アンドレーエフ反射分光法によるCo2(Fe,Mn)Siのスピン分極率の測定にも取り組み,ホイスラー合金Co2FeSiのスピン分極率を54±2%と決定することができた。これまでのスピン分極率の報告に関しては,点接触型アンドレーエフ反射(PCAR)法が主流であった。したがって,素子界面を原子レベルで制御したECAR素子を用いて,ホイスラー合金のスピン分極率測定に成功した初めての研究成果である。ゆえに,このエピタキシャル接合素子を用いたアンドレーエフ反射分光法によって,ハーフメタルジョセフソン素子に用いるCo2(Fe,Mn)Siのスピン分極率測定を直接決定することが可能となった。 以上を踏まえて,最適な成膜条件を用いて,MgO単結晶基板上にCo2(Fe,Mn)Siの膜厚を変化させたNbN/Co2(Fe,Mn)Si/NbN構造の三層膜を成膜した。この三層膜を用いてハーフメタルジョセフソン素子を作製し,その素子特性の評価にも取り掛かった。
|
今後の研究の推進方策 |
NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造の二層膜に関しては,異なる組成や膜厚の二層膜の強磁場中輸送特性の測定を継続し,超伝導ゆらぎ理論を用いた解析や磁束運動の活性化エネルギーの解析を進める。 NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造のエピタキシャル接合アンドレーエフ反射(ECAR)素子を用いたアンドレーエフ反射分光法に関しては,Co2FeSiとは組成の異なるCo2(Fe,Mn)Siのスピン分極率の測定を継続し,Co2(Fe,Mn)Siのスピン分極率の組成依存性を明らかにする。 さらに,最適化した成膜条件を用いて,エピタキシャル成長させたNbN/Co2(Fe,Mn)Si/NbN構造のハーフメタルジョセフソン素子の作製と特性の評価を継続する。ハーフメタル層であるCo2(Fe,Mn)Siの膜厚を変化させたジョセフソン素子を作製し,その素子特性のCo2(Fe,Mn)Siの膜厚依存性を調べることによって,ハーフメタルジョセフソン素子の特性を検証する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入したDSPデジタルロックインアンプ2位相型を安価に購入することができたため,次年度使用額が生じた。 そこで,アンドレーエフ反射法のための測定用試料として用いる低飽和磁化ハーフメタル材料の高純度原料の購入費の一部に充当する。
|