研究実績の概要 |
超伝導デジタル回路は,ジョセフソン素子の高速性・低消費電力性と共に,超伝導体本来の特性でもある無損失性という特徴をもつ。近年,超伝導デジタル回路の消費電力の低減化は急速に進んでいる。一方で,低消費電力・低温動作可能な超伝導メモリは,磁束量子の保持による記録に代わり,素子内に組み込まれた磁性体の磁化の向きで記憶素子を構成する方式が提案され,その集積化の可能性から研究が活性化している。そこで本研究の目的は,ハーフメタルホイスラー合金と超伝導体を用いたエピタキシャル多層膜の成膜技術とナノサイズ素子の加工技術を利用し,超伝導デジタル技術に必要な超伝導磁気メモリ(超伝導MRAM)のためのハーフメタル型ジョセフソン素子の作製と特性評価に取り組むことである。 我々は,超伝導体NbNとハーフメタルホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siをエピタキシャル成長させた積層膜の作製条件の最適化に成功し,この積層膜が高い超伝導転移温度とCo2(Fe,Mn)Siのバルクの値とほぼ等しい自発磁化をもつことを明らかにした。次いで,成膜した積層膜を用いた強磁場中輸送特性の測定を行った。超伝導ゆらぎ理論の解析から,ジョセフソン素子特性を最適化する際に重要となるコヒーレンス長や上部臨界磁場,対破壊パラメータ,拡散定数,非弾性散乱時間などの値の導出に成功した。そして,これらの値に基づいて最適化した条件を用いて作製したNbN/Co2(Fe,Mn)Si/NbN構造のハーフメタル型ジョセフソン素子の特性評価に取り組んだ。 成膜したCo2(Fe,Mn)Siのスピン分極率を直接的な方法で決定し,Co2(Fe,Mn)Siが高いスピン分極率をもつことを明らかにすることは,Co2(Fe,Mn)Siのハーフメタル特性を保証するために重要である。そこで我々は,NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造のエピタキシャル接合アンドレーエフ反射(ECAR)分光法を考案して,ホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siのスピン分極率の決定にも成功した。
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