一次元的に分布したマイクロラビングパターンを用いて作製した双安定液晶セルにおいては,ディスクリネーション近傍の配向状態は大きく異なるが,ディスクリネーションから離れた領域においては配向状態がほぼ等しい。よって,この領域においては双安定スイッチングの前後で色相の変化が小さくなる。この問題を解決するために,二次元格子状に分布した新たなマイクロラビングパターンを提案し,安定状態および準安定状態における液晶の配向状態の差が液晶セル全体に渡り大きくなるようにした。この新たに導入したパターンでは,単位胞は3つのラビング領域から成り,各々の領域におけるラビング方向は0°,90°および225°とした。このようにマイクロラビング処理を施した基板と,垂直配向膜を塗布した基板を組み合わせることによって液晶セルを作製した。なお,ネマチック液晶としてE170(メルク)を用いた。 作製した液晶セルに100 V(1 kHz)を数秒間印加し,除去したところブロッホウォールに類似した配向状態から成る格子状の欠陥構造が得られた。さらに時間の経過とともに,その欠陥構造が崩壊し,単位胞ごとに液晶の配向のサブドメインが生じた。それらのサブドメインはしだいに収縮し,最終的には消滅し異なる配向状態に遷移する様子が観察された。以上の実験結果により,二次元的に分布したマイクロラビングパターンを導入することにより,一次元的に分布したパターンを導入した場合と大きく異なる遷移過程を示す双安定液晶セルが実現できることが明らかとなった。今後の課題としては,安定状態および準安定状態の詳細な液晶分子配向状態の決定,双安定状態が得られるセル条件の考察などが挙げられる。
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