研究課題/領域番号 |
16K04937
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
家形 諭 福岡工業大学, 工学部, 助教 (00585929)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 静磁波 / 反強磁性 / 強磁性 |
研究実績の概要 |
本研究では反強磁性/強磁性材料界面に生じるバイアス磁界を利用し、静磁波の反射、屈折の制御を実現すること、およびこれらを応用することで静磁波を利用した高周波デバイス実現を目的としている。研究計画に則り、以下のように研究を推進した。強磁性材料および反強磁性材料としてNiFe合金およびIrMnを採用した。基板は熱酸化膜付きSi基板および石英基板を用意し、超高真空チャンバー内のDCマグネトロンスパッタを用いてNiFeおよびNiFe(5)/IrMn(5) (nm)を各基板に成膜した。IrMn成膜時にはIrMn/NiFe 界面においてバイアス磁界を付与するため、SmCo磁石を基板面内方向に磁界がかかるように配置した。 得られた試料の静的磁気特性を振動試料型磁力計(VSM)を用いて評価した。動的磁気特性は電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて評価した。NiFe単膜では、従来報告されているのと同様、軟磁性の磁化曲線が得られ、磁気モーメントはバルクの値860 emu/ccから低い800emu/cc より少し小さい程度であるが、薄膜として十分な大きさの磁気モーメントが得られた。ESR測定では熱酸化膜付きSi基板の大きな誘電率の影響でキャビティ内に定在波を安定して形成できなかった。そのため、石英基板上にNiFe/IrMnを成膜した試料のみ動的磁気特性の評価を行った。石英基板/NiFe/IrMnではバイアス磁界による160 Oe程度の磁界オフセットがみられた。バイアス磁界の大きさは従来報告されている値と同じオーダであり、磁界中成膜により、バイアス磁界がNiFeに印加されていることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では以下の項目を順に達成することを研究計画としている。A、反強磁性/強磁性積層膜、および強磁性/Pt膜の構造評価および磁気特性評価B、反強磁性/強磁性積層膜の静磁波反射特性評価C、反強磁性/強磁性積層膜の静磁波反射特性評価D-1、強磁性/Pt積層膜の静磁波吸収特性評価D-2、静磁波屈折を利用した静磁波吸収器の形成 現在はAの磁気特性評価の部分が完了している。本研究における障壁は主に試料作製および、試料の加工および評価の3つである。試料作製においては成膜装置の立ち上げが完了し、すでに達成している。また実際に試料を作製し、磁気特性の評価を完了している。NiFeおよびIrMn以外の材料においても、スパッタ装置のターゲット(母材)を変更することで成膜することが可能であるため、試料作製において、技術的困難はない。次にクリアすべき障壁は試料の加工である。試料加工にはリソグラフィや電子線描画など、高価な装置が必要であるが、北九州産業学術推進機構 微細加工ナノプラットフォームにおける共同研究施設を利用することで微細加工を実現する予定である。試料評価にはVSM、ESRおよびネットワークアナライザなどの装置を必要とするが、申請者の所属する福岡工業大学においてすでに所有ている。 以上より本研究推進は差し当たって大きな障壁はなく、実現へ向けて十分達成可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
B、反強磁性/強磁性積層膜の静磁波反射特性評価の実現へ向けて研究を推進させる。反射特性評価にはESRを用いる。NiFe薄膜上にIrMnストライプを微細加工で形成し、バイアス磁界による局所的に異なる内部磁界をNiFe内に生じさせる。ESRによって印加されるマイクロ波はNiFe上に静磁波を励起させるが、IrMnストライプ直下のNiFeが内部磁界が異なるため、周囲のNiFeとは異なる磁界で静磁波が励起される。その結果、局所的に静磁波を励起することが可能となる。IrMnストライプの幅を励起させる静磁波の半波長の定数倍で構成すれば、IrMn直下でのみ生じる静磁波の定在波が生じるため、ESRにおいてマイクロ波吸収によるスペクトルが観測されるはずである。スペクトルが観測された時点でこれはIrMnによる静磁波反射を示す世界初の結果であり、かつその反射特性をスペクトルから知ることができる。 本研究で使用する試料は研究代表者所有の超高真空マグネトロンスパッタ装置で成膜し、北九州産業学術推進機構 微細加工ナノプラットフォームにおいてIrMnストライプを形成する。ESR測定は福岡工業大学所有のESRを用いて実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予算は当初の計画通り真空機器を中心に執行されており、本研究を推進するうえで適切に利用されている。しかしながら、次のステップへすすむにあたり、今年度分だけでは十分な予算ではないこと(真空機器であるスパッタ源やターゲット、六方管などは単品では使用することができない。)、および研究の進展にあわせて柔軟な限られた貴重な予算を優先順位の高いものから効率的に配分するため次年度使用額として、繰越した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では既存のチャンバーに新しくスパッタ源を増設するか、または現在の試料作製の進捗状況によっては、微細加工に必要なエッチング装置を構成するために予算を執行する予定である。
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