本研究は反強磁性/強磁性材料界面に生じるバイアス磁界を利用し、静磁波の反射、屈折の制御を実現すること、静磁波反射器、および静磁波減衰器を実現することを目的とした。本研究では静磁波を伝搬させる媒体として強磁性金属材料であるNiFe合金を採用し、静磁波を反射、屈折させる材料として反強磁性材料であるIrMnを採用した。 初年度はマグネトロンスパッタ装置を用いて、石英基板上にNiFe/IrMnを成膜し、その磁気特性評価装置を用いて評価を行った。NiFe/IrMnの試料はIrMnによるバイアス磁界の影響を受けており、160 Oe程度の磁界オフセットが観測された。IrMn有無で存在できる静磁波の周波数が異なることが実験的に示された。 平成29年度は実験の効率化を目的として、静磁波シミュレーションを中心に研究を推進した。実際の静磁波は磁性材料の磁気特性に加えて、厚みや幅に依存して異なる振る舞いを示すこと。またIrMnストライプの幅、厚さ、作製条件によっても静磁波の振る舞いが変化することがわかった。さらに静磁波速度がある一定の値以上かつバイアス磁界がある値を超えると急峻に静磁波反射率が増大する条件が存在することを見出した。この結果からIrMn厚みが静磁波反射を決定するうえで、非常に敏感であることがわかった。 前年度までの成果を受けて、最終年度は試料作製の効率化を重視して研究を推進した。静磁波の振る舞いはIrMn厚みに敏感であることから、IrMn膜厚を細かく制御すること、それに対するNiFe膜厚の依存性、IrMnをストライプ状に配置する場合、ストライプ幅および間隔依存性を精査する必要がある。これらの依存関係を明らかにするためには大量の試料作製および評価が不可欠である。そのため、現在の成膜装置を自動化し、チャンバーの増設を行った。成膜装置改造にはある程度の時間が要求されるが、長い目で見た場合、今後の研究推進の効率化に大きく寄与すると考えられる。
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