紙の上に形成された金属表面で表面プラズモン共鳴が発現することを示し、「紙」を化学・バイオセンサ用のチップ基材とするペーパープラズモニックセンサの構築を研究目的とする。紙は、安価で軽量、加工性に優れるほか、センサ基材として使用後容易に裁断、焼却などの処分が可能である。本研究では、Otto光学配置を利用し紙をセンサシートとする物質のセンシングの可能性について検討を行った。 塗工紙表面に金の連続膜を蒸着したものをプラズモン場を発生させるセンサシートとし、プリズムと紙との間にギャップを形成、赤外および近赤外のp偏光を入射光としてOtto光学配置を構築した。反射率の入射角依存性を計測したところ、伝搬型表面プラズモン共鳴が紙上の金表面で発現することを確認した。金表面でタンパク質が特異吸着する系を導入した場合、タンパク質吸着後に共鳴角シフトを確認することができた。紙表面に形成した金のパターンアレイにおけるCCDカメラでのタンパク吸着イメージングについては、プラズモン場となる金表面が基材の紙表面のラフネスを追随し共鳴角が各パターン位置によってずれるため、金パターン間におけるタンパク質吸着前の像の濃淡が不均一となり、吸着の有無を判断できる像の取得には至らなかった。 一方、平成29年度に見出した、10nm以下の膜厚の紙上の金不連続膜が室温でもマイグレーションし、局在表面プラズモン共鳴による発色および色相変化を起こす挙動について、温度条件や紙の表面ラフネスなどの条件を振って検討を行った。その結果、マイグレーション挙動は、紙―金、金―空気、空気―紙の3つの界面における自由エネルギーの総計が最小となるよう金がその形状を変化させる「固体脱濡れ」現象によるものと推定した。室温よりも高い温度で固体脱濡れが促進する一方、ラフネスが大きくなると脱濡れが阻害されることも分かった。
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