研究実績の概要 |
強磁場の作用によって純良で巨大なタンパク結晶を得ることを目的とし、鶏卵白リゾチームと植物由来のソーマチンを対象とし、13Tまでの均一水平磁場中で液-液界面析出(LLIP)法によって結晶を育成した。 リゾチームについては昨年度までの実績(10倍のサイズの結晶を得た)をもとに、研究を進めた。結晶サイズの増加に伴う質の低下を抑制するために、質の指標であるモザイシティに深く関連する配向の磁場制御を追求した。具体的には、結晶化剤として8種類の塩化物(Li, Na, K, Ca, Cs, Mn, Co, Ni)を用い、13Tまでの水平磁場中で結晶を育成し、サイズ、配向、構造を評価した。5種の反磁性塩と常磁性塩化マンガンでは両錐形正方晶結晶が得られ、何れもc軸が磁力線と平行に配向した。一方、常磁性塩化コバルトを用いて作製したリゾチームも正方晶結晶であったが、a軸が磁力線と平行に配向した。この結晶のX線構造解析を行い、6配位のCoイオンが結晶の特定部位に取り込まれていることを明らかにした。塩化ニッケルでは斜方晶結晶が得られ、a軸が磁力線と平行に配向した。異なる結晶化剤を用いると配向方向が異なる理由は、晶系やモルフォロジーが異なる結晶が得られることに加え、常磁性金属イオンが取り込まれる位置が異なることで磁気異方性が異なることで説明できる。 ソーマチンについては報告例がなかったので、500以上の条件から結晶化条件を特定し、10Tまでの鉛直磁場中でLLIP法により結晶を育成した。磁場による過重力環境では成長反応時間が抑制されるためさらに小さな結晶が得られ、逆に減重力環境では比較的大きなサイズの結晶を得ることに成功した。 両結晶をあわせて考察すると、水平断面積を最大たらしめる結晶配向を磁場で行い、かつ磁気力による減重力環境を実現することで飛躍的に結晶サイズを巨大化することができると考えられる。
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