海底メタンハイドレートが堆積物中で形成する多様な形状の形成過程の理解を目的として、THF、水、ガラスビーズを混合した系におけるTHFハイドレートの形成実験(室内におけるモデル実験)を行った。本研究の方針は、現実の海底メタンハイドレートの生成過程の理解に重要なゲスト分子の拡散律速の影響や堆積物中の水分量(含水比)の影響および実験セルのサイズ効果の検証にあり、以下の知見が得られた。 低THF濃度のサンプルを用いることでゲスト分子の拡散律速性の影響を顕在化させた場合、結晶はファセットを持った単結晶特有の形状を形成した。しかし、これは現実の海底下では見つかっていない形状であり、低濃度かつ低含水比のサンプルを用いることで現実の海底下の成長過程に近づけた。この結果、粒状、塊状という海底メタンハイドレート特有の形状を再現できた。 結晶化に必要なTHF濃度を低下させた効果は、結晶の成長速度を低下させることで単結晶特有の形状を形成しやすくし、一方、含水比を下げることで異物質としての固形粒子の影響が強まり霜柱状の形状が形成されやすくなったと考察した。 また、より大きなセルを用いることにより十分な溶液量を確保した実験を行った。特に、低速度実験では大きな霜柱状の結晶領域が形成されるため、溶液の取り込み量が多いためにセルのサイズ効果を回避する必要があった。この結果、低速実験では、塊状の結晶と層状の結晶が混在することが示された。成長速度とビーズの粒径分布という変数をもとに結晶形状を形のダイヤグラムに分類したときに、層状と塊状の境界付近の条件では、2つの形状が共存することが明確となった。この結果をもとに、結晶が一定の温度条件下で成長した場合においても、一つの霜柱状の結晶領域の形成後に、結晶周囲の含水比やゲスト分子濃度が変化することで、次の霜柱領域の形成時に異なる形状の形成が優位になる原因と考察した。
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