研究課題/領域番号 |
16K04954
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小沼 一雄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (70356731)
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研究分担者 |
山越 康雄 鶴見大学, 歯学部, 教授 (20182470)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アモルファスナノ粒子 / 基板成形圧力 / エナメルタンパク質 / アパタイト / OCP / 骨代替材料 / フッ素イオン |
研究実績の概要 |
本研究の最大目標であるエナメル質類似組織(人工エナメル質)を迅速作成する基礎技術は、昨年度に達成した。その概要は、圧縮成形アモルファスナノ粒子基板を用いて、表面に一配向アパタイトナノロッドの密充填構造を作るものであった。本年度はナノロッドの充填度に関する詳細な研究を行う予定であったが、予想よりも簡単にデータが得られたため、人工エナメル質の作成技術を新規骨代替材料創製に応用した成果、及び人工エナメル質組織形成に対するフッ素イオンの効果を検証した成果を合わせて述べる。 1)人工エナメル質組織におけるアパタイト結晶の充填度に関して:アモルファスナノ粒子基板の成形圧力を変えるだけで、ナノロッドの幅及びナノロッドの数密度を簡単にコントロールできることを証明した。具体的には、基板成形圧力を5MPaから60MPaに変化させると各ナノロッドの幅が約1/3に減少し、数密度は5倍に上昇した。 2)アパタイトナノロッドの充填度に関するエナメルタンパク質の影響:豚歯牙組織から抽出したアメロゲニン及びエナメリンを含むタンパク質溶液を、人工エナメル質を作成する擬似生理リン酸カルシウム溶液中に添加してナノロッド形状及び充填度に対する影響を調べた。研究は現在進行中であるが、特にOCPとアパタイトが形成する臨界のフッ素イオン濃度近辺において、ナノロッドの形状と充填度が大きく変化するデータが得られている。 3)人工エナメル質作成技術の骨代替材料作成への応用:新生骨誘導能力に優れたOCPをβ-TCP基板上に作成することに世界で初めて成功した。圧縮成形β-TCP基板上にOCP結晶層をコーティングし、且つ基板のTCP粒子のサイズをナノ化することでOCPの構造と化学組成をコントロール可能なことを示した。 4)フッ素イオンの効果:アパタイトナノロッド及びOCPが形成するフッ素イオン濃度に関する詳細な条件を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目標である人工エナメル質形成技術の確立、及び形成組織に対するエナメルタンパク質の効果検証に関しては、平成29年度終了時点で99%終了している。研究過程における副次的な成果として、人工エナメル質作成技術を新規骨代替材料の創製に応用することに成功した。加えて人工エナメル質を作成する溶液中の微量フッ素イオンの濃度を変えることで、アモルファスナノ粒子基板上に形成する結晶群を「歯組織特有物(アパタイト)から骨組織特有物(OCP)」に任意にコントロールできる技術を開発した。これらの成果は全て特許出願しており、当初の計画を大きく超えて研究が進展していることは明白である。 更に本研究の応用として、共同研究先である鶴見大学とのプロジェクトも複数進行している。それらは、アモルファスナノ粒子基板を用いたヒトセメント質組織の再現(これまでに成功例なし)、アモルファスナノ粒子とジルコニア基板を組み合わせた新たなインプラント用材料創製、象牙芽細胞を用いた人工象牙質の形成、等である。これらの進展は、研究計画が当初の予想を遥かに超えて大きな広がりを見せていることを意味する。
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今後の研究の推進方策 |
人工エナメル質作成技術に関しては、研究テーマとして唯一残っているエナメルタンパク質との相互作用解明を行う。具体的には豚歯牙組織から抽出したアメロゲニン及びエナメリン(鶴見大学が準備)のアパアイトナノロッドの形状及び充填度に関する定量的データの取得を行う。既に「研究実績の概要」項で述べたように、これらのタンパク質は溶液中のフッ素イオン濃度と密接に関連して人工エナメル質の結晶種及びその形状を変えている。これに関して早急にまとめ論文化する予定である。 上記テーマの遂行と合わせて、鶴見大学と共同で行っている人工エナメル質作成技術の応用研究を推進する。これは「人工象牙質と人工セメント質」の創製に関連しており、本研究で確立した人工エナメル質形成技術と合わせて「歯の完全再現」へと繋がる重要な研究と位置付けている。特に種々の細胞培養技術と組み合わせたこの研究は、実際の口腔内である歯髄組織中における歯再生と密接に関連しており、その意味では治療現場により近い環境での技術利用を想定したものである。 本研究のテーマ中における純粋にアカデミックな部分として、骨代替材料として作成したOCP結晶の構造安定性に関する機構解明も遂行したい。OCP結晶は新生骨誘能力に優れているため、近年、骨代替材料として注目を集めているが、その化学組成と骨誘導能力との関連が不明である。特にOCPの構造変調は骨誘導能を大きく変えると言われているが、具体的な変調構造に関する研究が行われていない。我々は実験と計算機シミュレーションを組み合わせて、この構造変調OCPに関するモデルを確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
作成した人工エナメル質関連、及び骨代替材料関連試料の透過電子顕微鏡観察にかなりの費用を要するため(1回約10-20万円)、平成29年度に30年度分の予算を50万円前倒し請求した。本来この予算で3回の電子顕微鏡観察を行う予定であったが、装置の使用状況が大変過密であり、結果的には1回の観察しか行えなかった。そのため前倒し請求の残額(約39万円)を平成30年度予算に繰り越す。この繰越予算はエナメルタンパク質の影響検証、及び、本研究から派生して鶴見大学との共同で行っている「細胞が関与した歯周組織の再建」課題における、透過電子顕微鏡観察費用に充当する予定である。
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