研究課題/領域番号 |
16K04956
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浜田 雅之 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (00396920)
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研究分担者 |
長谷川 幸雄 東京大学, 物性研究所, 教授 (80252493)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 走査トンネルポテンショメトリー / 走査プローブ顕微鏡 / 表面電気伝導 |
研究実績の概要 |
表面の電気伝導は、原子欠陥・表面ステップといった局所構造から影響を受けるが、低温では電子のコヒーレンス長が長くなるために、電子波の局在・閉じ込め効果など、局所構造間の相関が重要となる非局所現象が顕著となることが予想される。我々は、これまで、走査トンネルポテンショメトリー(STP)を開発し、ナノスケールの空間分解能での電位実空間測定を通じて個々の局所構造における電気伝導特性を明らかにしてきたが、同手法により低温下での非局所な電気伝導特性を直接的に測定した例は皆無である。今年度は、昨年度に低温STМ装置に組み込んだSTP手法を用いて、Si(111)7x7表面の測定を試みた。しかし、その表面の電気伝導特性が低温では金属的ではないせいか、STP測定を行うことができなかった。しかし、絶縁体基板上(酸化膜被覆Si基板)に作成した金薄膜を用いて、20~80K程度の温度範囲で温度を変えながらSTP測定を行うこと【温度可変型STP測定】に成功した。電位はある特定のドメイン境界で変化するが、温度を変えるとこれまで電位が変化していたドメイン境界ではなく、別のドメイン境界で電位が変化するようになることを示唆する結果を得た。 次の年度には、Si(111)7x7表面などの清浄表面に異種原子を吸着することで作成される長周期構造を持つ金属的な表面系のSTP測定を目指し、局所構造起因の電位分布のみならず、ナノスケールでの観察が期待される特異な量子的非局所電気伝導特性の視覚化およびその微視的スケールでの解明を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々がこれまでに確立した室温STP手法を現有の低温STMに導入し、その低温測定を行う上で必要となる技術・ノウハウの確立・装置の製作等を行った。その評価として、絶縁体基板(酸化膜被覆シリコン基板)上に金薄膜を作成し、それを10Kで低温STP測定を試みたところ、表面に流した電流方向に対応した電位像を取得することができた【低温STP測定に成功】。 更に、温度を変えながらSTP測定を行うことにも成功した【温度可変型STP測定に成功】。一方で、温度変化により基板固定用のボルトが緩んで測定していた場所が動いたり、振動によるノイズが入りやすくなるということが明らかになった。その問題を解決するために、試料の固定方法を再検討する必要があることが分かった。 表面に流した電流による発熱の影響が大きく予定した液体ヘリウム温度T=4.2Kでの測定には成功していない。そこで来年度は冷却能力を上げるために、STMヘッドを収めているクライオスタットの部分を金コートしたり、配線の熱アンカーの取り方を工夫する予定である。また、清浄表面に電流を探すためのTa電極を作成する特殊な蒸着装置が故障してしまった。現有のその蒸着装置はすでに廃盤の機種であったため、通常の修理ではなくて大部分を最新のものに作り替える必要があった。そのため、製造元での修理に長い時間がかかってしまい、今年度は清浄表面での実験を数多く試みることができなかった。その結果として、今年度に完了予定だった超高真空中でのマスク蒸着装置の設計・製作に取り掛かることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
清浄表面に電流を探すためのTa電極を作成する特殊な蒸着装置が故障してしまったため、今年度中に完了できなかった超高真空中でのマスク蒸着装置の設計・製作を速やかに行う。そのマスクは以下に述べるようなコンセプトに基づいている。STP測定の信号強度を稼ぐには、電極間の距離を狭くして電位勾配を稼ぐ必要がある。そこで、目的の表面構造が得られた後に、Ta 電極の上から、Ag をマスク蒸着することによって、それぞれの電極を中央付近に伸ばして狭い間隔を持つ電極を作成し、電位勾配を増加する。このためには、超高真空中のマスクが基板に脱着が可能でなければならない。 そして、マスク蒸着装置が完成したらSi(111)7x7表面上に異種元素を吸着させて得られる2次元電子系(Si(111)-√3x√3-Ag)の測定を試みる。低温にすると基板・空間電荷層の伝導が抑えられるので、表面層だけの伝導が評価できるとされるので、曖昧さのない測定を行えると期待される。 また、 一般的に表面には多数のステップが存在するが、その密度(間隔)は一様ではないため、全体としての電気伝導への寄与は、単純に個々の和とはならない。もし、その間隔がコヒーレンス長程度の場合は、ステップ間に電子が閉じ込められ、エネルギー準位はステップ間隔に依存した離散的な振舞を見せる。その離散エネルギー準位がフェルミエネルギーに一致するかどうかで表面電気伝導が変化し、共鳴トンネルダイオードのような振舞いを示すことが期待される。 以上のように、局所電気伝導特性だけではなく、電子のコヒーレンスが高まることによって生じると期待される量子的な非局所電気伝導特性を実空間観察により解明することを目指す方針で研究を遂行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
清浄表面に電流を探すためのTa電極を作成する特殊な蒸着装置が故障してしまった。現有のその蒸着装置はすでに廃盤の機種であったため、通常の修理ではなくて大部分を最新のものに作り替える必要があった。そのため、製造元での修理に長い時間がかかってしまい、年度中に超高真空中でのマスク蒸着装置の設計・製作に取り掛かることができなかった。次年度にその加工のための予算を執行する予定である。
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