研究課題/領域番号 |
16K04957
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小倉 正平 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (10396905)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表面・界面物性 / 水素 / 合金 / 光脱離 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究ではCOの吸着を利用してPdAu合金表面における水素の吸放出サイトを明らかにすることを目的とする.Pd70Au30(110)表面においてCOが水素の吸放出サイトをブロックすることを利用し,そのCOの吸着サイトを反射型赤外吸収分光法を用いて調べることにより水素の吸放出サイトのミクロな構造を明らかにする.また昇温脱離スペクトルのシミュレーションを行い,COによる吸放出サイトのブロックのメカニズムを解明する.さらに光照射によるCOの脱離を利用して,水素放出温度の制御を試みる. 本年度はCOキャップ効果のメカニズムを解明するために,試料内部の水素拡散とCO吸着による水素放出サイトのブロック効果を取り入れた昇温脱離スペクトルのシミュレーションを行った.赤外吸収分光により明らかにしたCO吸着による表面再構成とCO吸着サイトの移動の動的効果を取り入れることにより実験結果を再現することに成功し,COがPdを含む表面サイトに吸着していると水素の脱離がブロックされ,ブリッジサイトに吸着している場合にはオントップサイトに吸着している場合に比べてブロック効果が大きくなることを明らかにした. さらに赤外吸収分光ステージに紫外光を通す合成石英窓を追加し,現有の重水素ランプからの紫外光を試料表面に照射してCOの光脱離の測定を試みた.基板温度100 K付近でCOを吸着させ,重水素ランプからの紫外光を照射しながら赤外吸収スペクトルを測定したところ,CO伸縮振動のピークが減少し,COの光脱離を観測することができた.しかし照射時間を増やしても完全にCOを脱離させることはできなかった.これは紫外光照射により合成石英窓から脱離したCOや水が表面に吸着したことが原因だと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた昇温脱離スペクトルのシミュレーションで実験結果を再現することに成功し,COによる水素吸放出のブロック効果のメカニズムが解明できたため.光照射によってCOを完全に脱離するところまでは達成できていないが,光照射によるCOの脱離が観測されたためおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
紫外光照射によるCOの脱離条件の最適化を行う.紫外光源を真空槽内部に設置するなど,紫外光照射による試料表面以外からのCO等の分子が脱離して試料表面に吸着するのを防ぐ工夫を行う.またエネルギーの異なる別の紫外光源を利用することも試みる.その後,COの光脱離を利用した水素放出温度の制御を行う.試料内部に水素を吸蔵させた後に基板温度100 K付近でCOを曝露して水素の吸放出サイトをキャップする.その試料を200~300 Kに保ち,重水素ランプからの紫外光を照射する.COが脱離すればそれに伴って水素の脱離が観測されるはずである.どのサイトのCOが脱離するかを赤外吸収分光により測定し,同時に上段ステージの四重極質量分析器により水素の脱離を調べる.紫外光照射時の基板温度を変化させ,水素放出温度の制御を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた真空部品の設計が間に合わなかったため.平成30年度にその部品の購入に使用する.
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