本研究ではパラジウム(Pd)金(Au)合金表面において一酸化炭素(CO)が水素の吸収・放出サイトをブロックすることを利用して,COの吸着サイトを調べることによりPdAu合金表面における水素の吸収・放出サイトとCOのブロック効果のメカニズムを明らかにし,さらに光照射によるCOの非熱的脱離を利用して水素放出温度の制御を行うことを目的とした. 昨年度の研究で紫外光照射によるCOの脱離が観測されなかったため,本年度は電子線照射を用いたCOの非熱的脱離を試みた.オージェ電子分光装置からの電子線を試料表面に照射し,同時に脱離してくる分子を四重極質量分析器で測定できるように試料ホルダーと実験装置を改良した.基板温度140 KでPdAu試料に水素を吸収させた後に100 Kで表面にCOを吸着させた.その後試料を260 Kに保った状態で2000 eVの電子線を照射しながら四重極質量分析器により脱離分子を測定した.わずかなCOの脱離は観測されたが,COの脱離に伴う水素の脱離は観測されず,水素の脱離をブロックしているCOを電子線照射で脱離させることはできなかった.一方でCu製の試料ホルダーに電子線を照射した場合はCOの脱離が観測され,表面組成を変えれば電子線照射によるCOの脱離が期待される結果が得られた. 補助事業期間全体を通じた成果として,PdAu合金表面におけるCOの吸着サイトを原子レベルで明らかにし,COによる水素放出のブロック効果のダイナミクスを解明することができた.本研究で試みた条件では紫外光や電子線の照射によりCOを非熱的に脱離させることはできなかったが,見方を変えればCOが水素の脱離を非常に安定にブロックする分子であることを明らかにしたと言える.水素吸蔵材料の高性能化や水素放出温度の制御につながる重要な結果であると考える.
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