研究課題/領域番号 |
16K04958
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
伊藤 治彦 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (70201928)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アモルファス窒化炭素 / プラズマCVD / 高周波プラズマ / マイクロ波プラズマ |
研究実績の概要 |
本年度は「高周波マグネトロンプラズマを用いたa-CNx:H薄膜の合成と構造解析」の内容について研究を実施した。 【緒言】a-CNx:H薄膜を作製する方法の一つとして有機化合物とN2の混合気体放電が広く用いられるが、膜の窒素含有率が0.1程度以下と低く抑えられることが問題であった。我々のこれまでの研究で、マイクロ波プラズマCVDにおいて上記の反応系を用いた場合、有機化合物の分圧をN2の分圧に比べて抑制することで高窒素含有の薄膜を得られることが見出された。本研究では工業的に広く使われている高周波プラズマCVDを用いて、高窒素含有a-CNx:H薄膜を作成した。有機化合物の原料としてCH3CNまたはC6H6を用い、N2とArの混合気体で希釈した。高窒素含有薄膜の構造解析は研究例が限られており、特に薄膜の結合状態には不明な点が多い。そのため本研究ではX線光電子分光(XPS)を用いた構造解析を行った。 【実験】高周波マグネトロン電極と接地電極のそれぞれの中央にSi基板を設置した。真空チャンバー内に五酸化リンを通して脱水したCH3CNまたはC6H6を7 mTorr、さらにArとN2ガスを導入して全圧を0.3 Torrにし、高周波プラズマを3時間発生させて成膜した。 【結果】CH3CNを原料とし、Ar 0.3 Torrで作製した薄膜とAr 0.2 Torr/N2 0.1 Torrで作製した薄膜の窒素含有率は、XPSによる元素分析の結果、それぞれ0.27と0.50となり、N2を導入することで薄膜の窒素含有率が著しく上昇した。C(1s)の高分解能XPSスペクトルの結果から、前者では炭素同士による結合が支配的で、後者ではC=NやC≡Nによる結合が支配的であった。また、FT-IRの結果、薄膜中の水素原子は前者では-CHxの形で、後者では-NHxの形で取り込まれ、窒素含有率が高くなるほどC≡Nが増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題においては、当初の計画に比べて、高窒素含有率を有するアモルファス窒化炭素薄膜の合成と化学結合解析に重点をおいた。その理由は、特に後者の解析は炭素系薄膜材料の研究者からの要請が強く、それに応える必要があったからである。これまでの研究で、その分野に関する研究は進展があったものの、当初計画していた負高電圧パルス印加を用いた高硬度薄膜の形成・半導体レーザーを用いた振動分光の計測に関しては十分に手が回らなかった。加えて、これまでに行ってきたCNラジカルの可視レーザー分光でレーザー誘起蛍光の信号が観測できず、その理由が十分に解明されないでいた。そのため、その部分で研究が止まっており、問題の解決が必要となった。以上の理由により、(3)の判断となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度にはパルス負高圧電源を導入し、これまでに用いてきた高周波マグネトロンCVD装置を改良して負高電圧パルス印加を用いた薄膜の高硬度化を図る。合わせて、レーザー分光の問題点を解決してレーザー誘起蛍光分光が正常に実施できるようにし、さらに半導体レーザーを導入して振動分光の計測へと発展させる予定である。これらの成果は本年度の春秋の応用物理学会ならびに国際会議(DPS2018)で発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、平成29年度に負高電圧パルス電源を導入して、高周波プラズマCVDで生成するアモルファス窒化炭素薄膜の高硬度化を目指す予定であったが、「現在までの進捗状況」で述べたように、学会からの要請に応えるために予定を変更して高窒素含有薄膜の化学結合解析に重点をおいた。そのため、負高電圧パルス電源の導入を次年度に回すこととした。以上が次年度使用額が生じた理由と使用計画である。なお、負高電圧パルス電源の導入を次年度に回すことにより、当初研究計画の大幅な変更は生じない。
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